クエという魚がいます。ハタの一種で大分類の仲間ではスズキと同じ系統になります。日本での生息域は主に九州地方で、九州あたりではクエのことをアラと呼ぶそうだ。ちなみに、標準和名ではクエだし、標準和名でアラという魚がいるからちょっとややこしい。
さて、クエは主に西日本で取れる魚なのだけれども、常連のお客様から「クエ料理を食べたい」というオーダーが入ったのである。といっても取り寄せる必要もなくて、実は地元である御前崎港でも漁獲がある。南海ほどの漁獲はないけれど、近年ではこのあたりでもそこそこの漁獲高があるらしい。御前崎市ではクエ料理を新たな名物にしようと取り組みが始まっているそうだ。
どうやら、30年ほど前から少しずつ海水温が上がってきているのか、南の海で取れるはずの魚が静岡県の海でも捕れるようになってきている。ふぐが捕れるようになったのもその影響のひとつらしい。
むとうは結構な無茶を聞く店だというのは、常連のお客様だ。今回のように日頃から仕入れているような食材でなくても、「美味しく提供できるものなら何でもやる」というスタンス。料理の研究の時間が欲しいので、早めに言ってもらう必要があるのだけど、よその店に食べに行ったり試作をしたりして一生懸命に準備をするのだ。そしてそれを食べてもらう度に批評をしてもらって、気がつくといつの間にか料理のレパートリーが増えていくという寸法だ。
もちろん、こういうご要望をおっしゃるお客様は「プレミアム会員」である。
毎回のように、あれが食べたいこれが食べたい、こんな雰囲気が良いと要望をいただくのだけれど、それがまたお互いに楽しいと思っているフシがあってね。僕らは、新しい料理にチャレンジするのが楽しいわけで、まさにお客様に育てていただいているという感覚がとても強い。お客様も、僕らがあれこれチャレンジしているのが楽しいと感じているとおっしゃっている。一般的に考えると商品がお客様の手に渡るのは、わりと一方通行になりやすいのだけれど、今のむとうは相互交流になっている。ある種のコミュニティーみたいな感じでやりとりがあるので、「食を楽しむ」の楽しみ方がいい意味で広がっているのかもしれない。そう思うとなんだかひとりで嬉しくなっちゃうな。
今日クエを仕入れたので、今週のお客様にはクエ料理をお出しいていくことになりますよ。だって、クエって大きいんだもの。小さいものでも5~7kgで立派なものになると10kgを超えるという大物系の魚。一度仕入れると、なかなか使い切るのが大変なのだ。
劣化させないように、なんなら熟成してうま味が膨らむようにしっかり対応して、皆さんに美味しいクエをお届けしましょう。
プレミアム会員の皆様の「素敵なわがまま」お待ちしています。
温暖化は問題だけれども、遠州地方でも美味しいクエやふぐを食べられるのもその影響の一端だとすると複雑な心境になりますね。