料理に関する話が少ないというこのエッセイです。そろそろ食材のことを書かないと何屋かわからなくなるかしら。
食材はいろんな分類に分けることが出来るのだけれど、天然か養殖かという分け方もあるよね。魚だけじゃなくて肉も野菜も同じ分け方が出来る。と考えると、肉は大抵が養殖だと言えるし、野菜もほとんどが養殖だ。養殖を「人間が育てる」という解釈にすればだけどさ。
どちらが良いかは一概に言えない。天然の大根や人参を食べたことがないから比較もできないし、野生の牛肉を食べる機会もめったに無いからね。わからない。なんとなくだけどさ。天然の人参ってあんまり美味しくなさそうだよね。農家さんが一所懸命作ったほうが美味しそうだ。
魚は比較ができる。天然の方が珍重されているのだけど、どちらが美味しいかは意見が分かれるところです。個人的見解では、天然のほうが美味しいと感じることが多いかな。その違いはなんだろう。ということだけれども、最近ちょっと気になることがあってね。ふたつ。
ひとつは脂信仰。もうひとつは成長の早さ。
脂信仰というのは、なんでも脂が乗っている方が美味しいという発想が原点だ。確かに脂質はコクがあるし甘みもあるから、美味しいと感じるよね。だけどさ。脂と言ったって、色々あるじゃない。魚や肉の脂だとわかりにくいかもしれない。サラダ油とオリーブオイルとえごま油に胡麻油。みんな「味が違う」でしょ。その違いは、原料となる植物が違うということと土壌が違うということ。同じ胡麻油でも、ものによって味に違いが出るのは土壌の差。つまり「何を食べて成長したか」「どんな環境で育ったか」だ。
肉や魚も同じことが言えるね。何を食べて成長したかによって脂の質が変わる。あまり体に良くないものばっかり食べていれば、脂の質は悪くなる。というのは人間でも同じだからわかりやすいね。環境というのは、言葉のとおり。運動量とか規則正しい生活とかストレスとか、そういうのも含まれる。今の養殖技術はかなり発達したから良くなっているけれど、大海で泳ぐ環境を完全に再現することは難しいもんね。運動量が足りないと「メタボな魚」になる。運動もしていて、かつ脂が乗っている。こういう魚と比べちゃうとやっぱり勝てないよ。
養殖は成長の早さを求められることが多い。全部じゃないけど。投資コストと売上のバランスをとって経営しようと思ったら、効率よく商品を出荷しなくちゃいけない。だから、天然だと5年かかるところを1年で済ませる。急成長だ。お茶でも同じことが言えるんだけど、じっくりゆっくりと育った茶葉はなんとも言えない旨味があるんだよね。めったに手に入らないだろうけど。香りも渋みの質も別物。苦味も味のうちなんだけど、さっぱりしていて、苦味そのものが美味しい。
こんな話がある。とある魚の養殖業者(A)が経営不振で、同業の社長(B)に助け舟を依頼した。通常2年で出荷するところが5年も生簀で飼っているという。さぞかし大きくなっているだろうと思ったB社長が生簀を覗いてみると、確かに大きい。だけど、大きさは5年ものというよりは3年もの程度の大きさだった。B社長が食べてみると明らかに通常の2年物より美味しかったそうだ。普通の養殖ならスカスカの味になるはずなのに。
そう、ゆっくり成長した個体のほうが大きくなっても味が良いままだという事例だよ。こういうことが往々にしてよくあるんだ。
養殖はこれからも進化し続けるだろうから、今日書いたことがそのうち過去の話になるんだろうね。全ての食材に当てはまる話じゃないから、個別に対応していく労力にはホントに頭が下がります。