世界最古のお酒は中国という説が有力です。中国南部の賈湖遺跡(かこいせき)で見つかった土器にお酒の成分が見つかっている。時代は紀元前7000年頃。メソポタミア文明より後のようにも見えるけれど、古代史研究ではこちらが最古になっているということは、メソポタミアはちゃんとした証拠がある紀元前4000年頃が最初という扱いなんだろうね。
ひとつとても興味深いのは、「果実から作られる酒」のほうが原始的なんだよね。
これは解説が必要だね。昨日のエッセイでも書いたけれど、木の実は勝手に発酵するという話をしたよね。だから、「地面に落ちた発酵木の実」を食べたのが人類の祖先に居たんじゃないかって。これはちゃんと理由があって、発酵の仕組みに必要な要素が木の実には備わっているんだけど、穀類には備わっていないんだ。
お酒にはアルコールが必要だ。当たり前だけどさ。このアルコールを発酵によって生成することを醸造って言うんだけど、発酵には条件がある。まず、発酵の養分になるのは糖質だから、「糖質」がなくちゃならない。それから、「酵母」が必須だよね。イーストと言い換えても良い。そして、酵母が発酵してお酒になるまでの間「適温で維持する」環境が必要になる。
まとめると「酵母が入った糖質をたくさん含む液体を適温に維持する」が、醸造の条件だね。
この条件の中で穀物になくて果実にあるものが「酵母」だ。果実の皮には始めから「酵母」になるものが含まれているんだ。だから、最初のお酒は果実酒だということになる。もしかしたら「あまい果実をまとめて保存しておくとお酒が出来るんだ~」くらいに思っていたかもしれないよね。お酒というか「酔っ払う果実」みたいな感じかも。
実は果実以外にも同じ条件を兼ね備えている原料があったんだ。それがハチミツ。そもそもハチミツは果実の素である花の蜜だもんね。それをたくさん集めておくだけでもお酒が勝手に発生する環境に近いんだけど、ハチミツだけだとちゃんと発酵してくれない。水分が足りないからね。だから瓶の中にハチミツと水を入れて置いておくだけで立派な「ハチミツ酒」が出来るんだってことに誰かが気づいたんだろうね。
ハチミツは、超古代から重要な食料として重宝していたことがわかっている。なんせ、農業がまともに成立するかどうかの時代のことだ。栄養価も高くて、当時は不足しがちだった糖質を摂取できるという点で高機能食品だからね。今でもハチミツは凄いって言われるでしょ。これを集めてきて溜めておくのは自然の流れだったと推測出来るよね。ハチミツを2倍くらいに希釈して、ちょっと加熱して、そのまま常温で保存するとお酒になる。なんか美味しそうだ。
実際、中国の遺跡で発見された陶器にはハチミツとか米とか果物の成分が付着していたということだ。この時点では既に酵母の活用がされていたのかな。
諸説あって、果実酒が先だとかハチミツ酒が先だとか言われているみたいだけれど、どっちも根幹は親しいものだと考えると大差ないようにも見えるかもね。少なくとも、米や麦やトウモロコシが元祖じゃなかったらしいということは分かっている。つまり「穀物酒は文明と技術が確立してこそ作ることが出来る」ということがわかるんだ。醸造技術は先進国としての証明としての役割も果たしていたんだね。
古代の酒を調べていて気がついたことがある。地理的な条件だ。だいたい、日本と同じくらいの緯度に集中しているんだよ。中国南部、ネパール、日本、エジプト、ギリシア、中東。このあたりが、古代のお酒に関する資料が見つかっているところだ。おそらくは、高温多湿の気候が関係しているんだと思う。高温多湿な環境で発生するのは「カビ」だよ。カビっていうとイメージ悪いかもしれないけれど、「麹(こうじ)」ってカビ菌だからね。
ヨーロッパにお酒が広がっていくのはもう少し後なんだ。特に西ヨーロッパは乾燥地帯だから麹による発酵が発明されにくかったかも。
お酒のあるところが文明地域。ということが立証されるほどの文献には出会わなかったけれど、当時の西ヨーロッパが未開の地だったことを考えると、ある程度は当てはまりそうな気もするね。交易にも影響を与えていただろうし。実際、ギリシアは西ヨーロッパにワインを出荷していた時期もあるしね。
それにしても、お酒が文明の中心地と重なるのは面白い。日本なども含まれているところを見ると、文明があったから酒造りが発展したわけじゃなさそうだ。文明国として立国する条件のひとつに酒造りが関係していたのかもしれない。
今日も読んでくれてありがとうございます。古代の話だからピンとこない人もいるかもしれないけれど、もうちょっと待ってね。もう少しで身近なところにたどり着くから。