メソポタミアのシュメール人が古代ビールを発明してからどうなったか。そう、ビールとワインの話をしましょう。人類はどうも「お酒を飲むために」文化を発展させてきた側面もあるようだから、世界を俯瞰してみるのも面白いかもよ。
実はメソポタミア文明は「農耕発祥の地」でもある。人類史上偉大な発見の一つとされている「ヒトツブコムギ」が農業として活用されたのはここからだ。小麦の話はいつかちゃんと書くことにするけど、とりあえず今日のところはサラッと流しておいて。小麦だけでも膨大な文字数になっちゃうから。
話を戻すけど。小麦が無くちゃビールは作れないよね。この小麦を栽培する動機が何だったかというのが非常に興味深いんだ。一般的には「食料を安定させるため」に農業が発展したと考えるのが普通だし、ぼくもそれで間違いないと思う。だけど、それだけじゃない理由が「お酒を安定的に作るため」でもあると最近の研究では言われ始めている。昨日も書いたけれど、生水より安全という話だ。
お酒の酵母っていうのは凄いパワーがあって、発酵の過程でエタノールを作る。このエタノールは人間以外にはわりと有毒であることが多くて、微生物が嫌がるんだよね。中東からヨーロッパの水事情は中世以降までは中々改善されなくて、生水は衛生的とはとても言えない状態だった。ホントの意味でお酒は命の水だったんだ。と考えると、ビールを作るために小麦の生産を頑張ったという部分もあるんだよね。
さらに酵母のパワーが凄いのは、発酵の過程で「葉酸」「ナイアシン」「チアミン」「リボフラビン」というビタミンB群も生成してくれる。このビタミン類が人類の文明を支えたというのが通説になりつつつある。主食はパンと大麦粥、肉はたまにある祝祭でも食べられるかどうかだったらしいし、栄養状態はかなりひどかったんだって。だけど、ビールを飲めば必要な栄養は摂取できるんだよね。古代にかなり高度な文明がメソポタミアという砂漠地帯に出現したのは、ビールが下支えになったおかげだというんだ。
この2点を考えると、たしかに「農業はビールを作るためだった」と言っても間違いじゃないかもしれないよね。それにしてもさ。とんでもないことだと思うんだ。だってね、農業って相当大変だよ。偶然発見したヒトツブコムギを栽培して、1粒が3~5粒にしかならない。ということは、かなり広大な畑を作らなくちゃいけない。畑を作って管理していくには、かなりの重労働になる。もし、近くに豊かな自然があって、山菜や果物があるとするじゃない。魚も近くで捕れるとすると、わざわざこんなに大変な労働をする必要がないんだよ。だって、十分に生きていけるもん。
メソポタミア文明は、本当に絶妙なバランスの中で発達したんだろうね。そこまで自然豊かな環境ではないし砂漠地帯と呼んでも良いくらいだけど、ギリギリ砂漠になりきらない。というのはチグリス・ユーフラテス川が流れているから。こういう絶妙な環境だからこそ農業を行おうと思ったんだろうね。で、パンの栄養素だけでは生きていくのが困難だったからこそ、そのパンを発酵させてビールを作った。そうやって栄養を補給していたんだって。
念の為に補足するけど、この時代はまだコーヒーも紅茶もあるわけないし、牛乳もフルーツジュースもないからね。古代人にとってビールはめちゃくちゃ大切だったんだ。
今日も読んでくれてありがとうございます。酒税法のおかげでこのお酒を再現することは出来ないけれど、ドイツ人記者のアンドリュー・カリー氏の古代ビールを飲んだ感想を引用しよう。
「私は多少の不安を感じながらも、その液体をコップに少しだけ注いだ。穀物のかけらが表面に浮かぶ。こわごわ匂いを嗅いでからゴクリと一口飲んだ。酸っぱくて甘くて、パンみたいな味がする。後味は甘くないリンゴジュースだ。正直に言えば…うまい、と思った。」
歴史の味のするビール。いつか飲んでみたいよなあ。