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今日のエッセイ パリスの審判 怒涛の後編 2021年7月12日

イギリス人のスティーヴン・スパリュアとアメリカ人のパトリシア・ギャラガー。この2人がパリで開催したワインイベントの顛末が世界を揺るがした『パリスの審判』後編です。

スパリュアが選んだ審査員は、著名ワイナリーやレストランのオーナー、ワイン雑誌の編集長、ワイン行政の要人など。フランスのワイン業界を代表する蒼々たる顔ぶれだった。つまり、全員がフランスワイン贔屓ってことね。カリフォルニアワインなんかに負けるはずないけど、さらに負けないように鉄壁の体制を敷くわけ。っていうか、まだ34歳のスパリュアが、よくこれだけの人たちを集められたよね。

さて、運命の5月24日を迎える。開場はホテルの庭園。白ワインからのスタートだ。審査員はリラックスして審査を始める。「これは香りが全くないから、カリフォルニアだな」と審査員の一人が評したそれはブルゴーニュ産の「バタール・モンラッシェの1973年」。三ツ星レストランのオーナーが「これこそブルゴーニュだ」と言ったのはカリフォルニアのもの。だけど、ブラインド審査だからわからないんだよね。
赤ワインお試飲を始める前に白ワインの結果発表をしてみると、なんとカリフォルニアワイン(シャトー・モンテレーナ)が1位になっているじゃないか。

スパリュアも含めて審査員全員が「フランスワイン贔屓」なわけだから、相当な衝撃だった。頭を抱える出来事だっただろうね。だから、次の赤ワイン審査では絶対にフランスワインが勝つように頑張るわけ。審査員が頑張るってどうよ。とは思うけどね。とにかくホームタウンジャッジを全力でやるの。
ところが、1位になったのは「スタッグスリープ・ワインセラーズ」というカリフォルニアワイン。
みんな、どんな顔してたんだろうね。

これが「ニューヨーク・タイムズ」によって、全世界に報道される。『パリスの審判』という名前はこのときに記事を書いた「ジョージ・テイバー」がつけたタイトルから始まった。そして、1位のワインには世界中から注文が殺到して大変なことになったんだって。そして、ここが「新世界」のスタート地点だ。
テロワール理念こそが全てと思っていたら、そうじゃなかったってことが分かっちゃうんだよね。「偉大なワインは偉大なテロワールから」だって信じていたのに、アメリカであってもしっかり作れば偉大なワインが出来ると証明されたわけだから。アメリカに出来るんだったらおれたちだって、と思う国も当然あるよね。そうやって台頭してきたのがチリやオーストラリアだ。完全に風穴を開けたんだよ。これがきっかけでフランスの有名ワイナリーの弟子たちがアメリカやオーストラリアに研修に行くようになったというところが面白い。

あとね、ブラインド審査という手法も手伝ったよね。文句のつけようがないじゃん。この手法自体が今までにない斬新なものだったんだけど、これによって伝統とかブランドじゃなくて「中身を見る」という文化が始まったのも面白いよね。ブラインドじゃなかったらフランスの圧勝だっただろうし。
フランス側は悔しかったよね。だから負け惜しみでイチャモンつけるのよ。生産者というよりは、フランスのマスコミとかワイン業界といった周辺の人が主みたいだけど。「ブルゴーニュもボルドーも偉大なワインは長期熟成で真価を発揮する。試飲されたのは3~6年の若いものだ。カリフォルニアワインはピークを迎えているが、フランスワインはピークではない」。負け惜しみだけど、それでもこの頃の常識としては「フランスワインだけが熟成で美味しくなる」と根拠もなく信じられていたから、言いたい気持ちもわからなくはない。「10年後、30年後にやれば、絶対に負けない」って。

ということで、10年後の1986年にリターンマッチ(1回目、白ワイン)が開催される。結果は見事にカリフォルニアワインが1位。なんだけど、この時は「審査員が全員アメリカ人じゃないか。ずるいぞ」と言われて、あんまり重要視されなかった。いや、あんたたちの方がひどいことしようとしたじゃん。
で、30年後の2006年リターンマッチ(2回目、赤ワイン)を開催。今度はアメリカとロンドンで同時開催。ロンドンの審査員は完全にフランス贔屓。完全にボルドー有利の状態ね。で、その結果はカリフォルニアワインの「圧勝」。1位~5位までを独占するといったもの。
この頃からだよね。気づいているかも知れないけど、日本でカリフォルニアワインがたくさん出回るようになったの。リターンマッチのことは知らなくても、いろんなメディアでカリフォルニアワインの紹介がされるようになってさ。

「オーパス・ワン」という有名なカリフォルニアワイン聞いたことある?カリフォルニアを代表する最高級ワインのひとつだ。このワイナリーの持ち主って、ロスチャイルド(ロートシルトはドイツ語)家なんだよ。「シャトー・ムートン・ロートシルト」が作ったワイナリー。「シャトー・ラフィット・ロートシルト」は親戚。どっちもボルドー5大シャトーだね。ロスチャイルド家だけで、巨大ワイナリーを3つも持っているんだから。

今日も読んでくれてありがとうございます。イエス・キリストの血と言われたワインが、人のプライド合戦を引き起こし、お金をめぐる動きになって、政治に利用されて。いやもう、なんとういうか感慨深いですよ。ワインをめぐる振れ幅がね。

Posted in エッセイみたいなもの

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