エッセイみたいなもの

今日のエッセイ 新鮮だから生でも大丈夫という幻想 2021年7月23日

新鮮だから生で食べても大丈夫。っていう勘違いが拡大中です。最近、カンピロバクターによる食中毒が増えていて、その原因が「鳥の刺し身」が増えたからだそうだ。では、なぜ「鳥刺し」の消費量が増えたのかというと、牛肉の生食が禁止されたから。もう何年も前の話にはなるけれど、牛のレバ刺しが原因で大規模食中毒が発生したことがあった。これを契機に牛肉の生食禁止が法制化されたわけだ。だからユッケとかレバ刺しはお店で販売することが出来ない。その反動として、鳥刺しが増えたとさ。そこまで「生肉」を食べたいのか。ということになるのだけど、どう思いますか。まあ、確かに美味しいよね。

今回は生肉を食べる文化の話じゃなくて、衛生上問題ないのかということを考えることにする。そこで、まず考えたいのは「新鮮だから生で食べられる」という認識だ。ここでは主に魚以外の「肉」についてを対象にしているけど、ホントは魚も同様に考えなくちゃいけないよね。そもそも、鳥も獣肉も「新鮮だから生食OK」と言える類のものじゃないんだけど。

そもそも、誤解を招きやすい状況になってはいる。法律で生食を禁止しているのが「牛レバーや豚肉(内臓を含む)は、生食用としての販売」であって、鶏肉の生食は禁止対象になっていない。これが誤解の元なんだよね。「禁止されていないから大丈夫」という大きな間違いに繋がってきたような気がする。というのは、そもそも「生食可能な鶏肉」の販売は「ない」からだ。

「生食可能な鶏肉」は流通上存在していない。

これが大原則。まず、ここがいちばん大事なところね。静岡県はもちろん、どの都道府県の食品衛生関連の公式ホームページにも明記されていることです。
その上で、理由を紹介する。カンピロバクターという細菌をご存知だろうか。家畜はもちろん、ペットや野生動物も保有している菌だ。この細菌に感染すると頭痛、腹痛、嘔吐、発熱などの症状が出る。カンピロバクター感染で死者が出ることはまずめったに無いけれど、高齢者や子供などの抵抗力の弱い人は症状が激しくなることがある。なかなかひどい症状なので、避けたい食中毒だ。食中毒はみんな避けたい。

件の鶏肉がどの程度の割合でカンピロバクターに感染しているかを調べた結果が厚生労働省のホームページにあったので、書き出しておく。鶏レバー66.1%、砂肝66.7%、鶏肉100%というのが、一般市場に出回っている鶏肉を検査した汚染率だそうだ。鶏肉100%というのは検体が少ないのでなんとも言えないけれど、市販鶏肉以外の鶏肉もデータが開示されているので、興味のある人は一度見てもらうと良いかもね。(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000126281.html)

ぼくが思うに、感染率が100%であるかどうかはあんまり重要じゃないんだよね。そんなロシアン・ルーレットみたいなリスクを犯してまで食べる価値があるとは思えないということだ。ぼくらは飲食店を商売にしていて、お客様に提供する身である以上はリスクを回避することにする。お店が迷惑ということも無くはないけれど、食事を「楽しむ」というコンセプトにそぐわないから。どうしても召し上がりたい方は、ご自身の責任でお願いします。というところなんだけど、それもやめて欲しいんだよね。医療機関の方々の手を煩わせるだけだから。

確かに鳥刺しは一部地域では伝統文化だし、食べてみれば美味しいこともわかる。だけどさ。食べ物って、体を作るものでしょ。健康でいるために食べるものなんだ。料理の本質は「必要な栄養素を安全に効率よく、かつ継続可能な形にする」ことだと思う。その目的のために進化し続けてきて、その延長上に「楽しみ」としての料理が生まれていった。だから、楽しみを優先してリスクを負うというのは、料理としては考えものかもしれないと思っている。もし、動物としての本能の領域でリスクを負う食事をすることがあるとしたら、命の存続のために必要な状況に陥った時かな。かつては、そういうギリギリの食生活を送っている時代もあったから、リスクを追ってでも食べていたんだろうけど。

今日も読んでくれてありがとうございます。今回は、いつもよりちょっとシリアスな話になりました。でも、とても大切なことなので、読んでくれている人には伝わってほしいなと思います。

  • この記事を書いた人

武藤太郎

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