エッセイみたいなもの

今日のエッセイ お茶の苦味と渋みのはなし。 2021年8月21日

料理の基本五味については以前書きました。甘味、塩味、酸味、苦味、辛味。食材や調味料、その先の味付けとしてこの5つがあって、それぞれのバランスを取ることが大切だ。と、そういうことを言っているわけだよね。最近お茶のことを改めて調べ直していて色々と気がついたことがあるんだ。今日はそのことを書いてみる。

注目したのは苦味。鎌倉時代に栄西禅師が中国(唐~宋)に留学する。そこで禅宗を学んで日本の臨済宗の開祖になるわけだけど。その時、日本では下火になっていたお茶に注目して、改めて日本に喫茶文化を輸入し直すんだよね。「お茶のタネ(実)」「抹茶法」「お茶の効用」この3つが、栄西禅師が日本にもたらした喫茶文化の内訳だ。
日本に帰国してから栄西禅師は「喫茶養生記(きっさようじょうき)」という書物を書き上げる。そこで、茶樹のことや製法、喫茶の仕法、健康への効果なんかを解説しているんだけどね。そこで面白いことを言っている。「日本には苦味がない」とね。

喫茶養生記で述べられていることをざっくり書き出すとこういうことになる。
・養生で大切なのは五臓の調和である。
・五臓というのは肝臓、心臓、脾臓、肺、腎臓のこと。
・五臓の養生は五味とセット(肝臓は酸味、心臓は苦味、脾臓は甘味、肺は辛味、腎臓は塩味)
・中国人はうまいこと調和が取れているから健康長寿である。
・日本人は苦味が少ないことで心臓が弱り若死にするものが多い。
・お茶(抹茶)は苦味の最たるものだから、お茶は養生の仙薬であり長寿の妙薬である。

日本に五味が揃っていなかったということも興味深いけど、苦味に対して受け入れる風土を作ったと考えると栄西禅師は日本料理にも大きな影響を与えたと言えるかもね。だって、苦味のない料理はどこか物足りないもの。

苦渋の選択って言葉があるじゃない?ツライとかシンドイ時には「苦渋」という言葉が使われるのだから、苦い渋いは悪いイメージがあるかも知れない。実際、西欧諸国では割と忌避されることが多いんだって。紅茶やコーヒーが流行するためには砂糖が不可欠だったそうだ。苦渋の味も全くダメというわけではないけれど、基本的に砂糖や牛乳で緩和しないと飲めない。だから、砂糖が入手できるようになって初めて苦い飲み物が普及する。

でもさ。日本では苦い渋いはそのまま摂取する文化なんだよね。
日本でも薄茶糖といってお茶と砂糖の組み合わせはあるけれど、砂糖入りのお茶は敬遠されるじゃない。ペットボトルでも見たことないでしょ?海外で販売されているペットボトルのお茶では砂糖入りが結構たくさんあるんだ。もしかしたらこの辺りが日本人らしい、独特の感覚なのかも。
ヤマウドやフキノトウ、ニガウリ、ギンナン。独特のほろ苦さが舌に心地よい刺激をもたらしてくれる。こういった食材を多用するのは日本料理の特徴だと聞いたことがあるんだけど。他の国の料理より多いのかな。

今日も読んでくれてありがとうございます。そう言えば「苦み走ったいい男」は褒め言葉だよね。「渋いね~」と言うときも、大抵は褒め言葉だ。華美ではなく落ち着いた趣味の良さ。そんな感じなのかな。甘ったるいばっかりじゃ締りがなくていけねぇや。そんな江戸っ子の粋な声が聞こえそうだ。

  • この記事を書いた人

武藤太郎

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