エッセイみたいなもの

今日のエッセイ 「ふぐ」のおいしいアレコレ 2021年10月16日

ぼちぼち「ふぐ」の季節がやってきましたよ。下関なんかは10月1日から「かいき~ん!」って盛り上がるんだけど、静岡辺りだとしれっとシーズンが始まっていることが多い。もうふぐ漁船は漁に出ているんだろうか。

ふぐのシーズンは10月から3月となっている。これは、ふぐの個体数を維持するためにこれ以外の時期は、ふぐ漁船を出さないようにしようねってことなんだ。ちょうど、ふぐが美味しくなる時期でもあるからね。

そうそう、知名度はびっくりするくらい低いのだけど、静岡県西部から愛知県東部はトラフグの産地なんだよ。遠州灘っていう海岸線がこの地域にあって、ここでかなりの量のとらふぐが収獲できるんだ。最近では遠州ふぐっていうブランドで売り出しているけれど、なかなか浸透していないんだよ。ちなみに、遠州ふぐは下関に出荷していて最大のときは下関ふぐの6割は遠州産だったこともあったんだって。
そのくらい天然トラフグが捕れる地域だってことね。

トラフグは生まれたときは無毒。成長していく間に食べたもののなかに含まれている毒物を体内に蓄積することで毒性を帯びてくる。そういう生き物だってことが近年の研究で明らかになった。ということは、あまり知られていない。知られていないことで言ったら、ふぐの種類がたくさんいて食べられるものと、そうでないものがいることも。そして、ふぐの種類によって可食部位が違うこともそうだね。実は、ふぐの免許をとるときに、一番苦戦するのは鑑別だったりするんだよね。だって、毒フグを実際に見たり触ったりする機会なんてほとんどないからさ。試験のときだけ毒ふぐを見て正確に当てるのって難しくない?図鑑だけで覚えるんだよ。それで全問正解とか。よくやったよなあ。
食の安全のために、ちゃんと勉強して訓練してるのよ。

料理もいろいろある。まず最初にてっさ。ふぐの刺身のことね。実は意外にたくさんのパターンがあってね。どの程度身を締めるかがひとつかな。身を締めるというのは、身の水分を抜きながら熟成させることなんだけどさ。締めないと、身がゆるくて味が乗らないし、きれいなてっさにならない。一晩、二晩と、締める時間によって味わいも硬さも違うんだ。うちは、割としっかりと締めるタイプ。
しっかりと締める分だけ固くなるから、それに伴って身を薄くする。じゃないと固くて噛み切れなくなるからね。だけど、薄くしすぎると味がしないってことになるから、その加減が微妙なところ。味が濃い個体でしっかり締めたときは、数枚重ねて食べたときにちょうどよくなるようにして、お客様にもそう説明する。鮮度重視の場合は、薄くなりすぎないように調整して1枚でも美味しく食べられるようにする。とかそんな細かな調整をしているのがてっさ。
盛り付け方も、引き方も職人によって考え方が反映されるから面白いよね。

定番のてっちり(ふぐなべ)に、唐揚げ。焼きふぐも良いね。もう少ししたら蕪蒸ししてもいいし、しゃぶしゃぶも美味しい。ふぐ料理の原点と言われるのが味噌煮。というか味噌汁。戦国時代以前の主な食べ方は味噌汁だったらしいよ。他にも、和え物にしたり煮物にしたり、煮こごりもある。とにかく、ふぐはいろんな方法で食べ尽くすんだよ。可食部として認められているところ以外はバッサリ捨てちゃうからね。それ以外のところはしっかり食べる。
ちなみに、重量にするとだいたい半分くらいは食べられない。

これから少しずつふぐ料理の注文が増えるんだよね。そうすると店内全体がふぐのいい匂いに包まれるんだ。あれ、不思議でさ。捌いているときは他の魚よりも生臭いくらいの匂いなんだけど、調理してみると別格のいい香りがするんだよ。不思議だよねえ。
お腹へってきたわ。

今日も読んでくれてありがとうございます。ふぐは長い間「ふく」と表記するのが普通だった。濁点という文字記号がなかったからね。今でも西日本では「ふく」。だからめでたいときに食べることが多くて、正月と言えば「ふく」という地域もあるんだってさ。正月のふく。用意しときましょうかね。

  • この記事を書いた人

武藤太郎

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