エッセイみたいなもの

今日のエッセイ 酒税と価値観の多様化 2021年12月20日

「料理酒」「第3のビール」は酒税が生み出した産物だ。ついでに「みりん風調味料」もね。酒類には酒税がかかる。その条件がいくつかあって、条件から外れると酒税の対象外になったり、緩和されたりするんだよね。

料理酒は、出来上がった日本酒に塩を加えていることが多い。いわゆる安い料理酒ね。塩が入っているから、「嗜好品として飲むには適していませんよ」ということになるので、他の日本酒のような酒税がかからないわけだ。だから、その分安い。
みりん風調味料にいたっては、みりんとは全く製法が違う。アルコールを含んでいないのだ。みりんみたいな味に近づけた全くの別物。だから酒税の対象外になって安い。マーガリンみたいなものだ。
ビールは、日本で定義されている麦汁と副原料に比率があって、ある割合以上は麦汁を使わないとビールと呼ばないよということになっている。それを逆手に取って、第3のビールは副原料を多くしているからビールじゃないことにして、ビールよりも税率が低くて安く販売されている。最近税率が一緒になったけど。そもそも副原料の方が麦汁よりも安い。

こんなことを厨房で話していたら、「そもそも安いからってなんでそんなものを作らないとイケナイの?」という、とても素朴な疑問が飛び出した。
作り手の中に混ざって働いているからそうだよね。なんでまたわざわざ味の劣化したものを作るのか。怒らないでね。発泡酒を作っている人たちだって、ビールには劣るって認識した上で販売しているんだから。ビールと間違えるくらい美味しいっていう宣伝文句があるのが、なによりの証拠だよね。本物に近づけた偽物って言っちゃってる。

どんな回答が適切かはわからないけれど、一番大きいのは「売れるから」だろうね。とにかく「値段が安い」=「売れる」だ。安ければなんでも良いのかと言うとそういうわけでもないだろうけど。

安いものが売れることの消費者心理はどんなものがあるんだろう。
本物と比べたら劣化品だとはわかっているけれど、それなりに「有り」ではあるから普段は安いほうでいい。
質の違いなんかどうでもいいから「安い」が一番。
ある程度許容できる質の幅があって、その中で「安い」を選択する。
そんなところだろうか。という話になった。
エビデンスが有るわけじゃないから、ただの憶測と経験則でしかない。ホントのところどうなんだろう。

現代は、「多少値が張っても本物が良いよね」という人たちが少しずつ増加している。それも、この発想をどのカテゴリでするかが人それぞれだ。洋服だとか音楽だとか食だとかガジェットだとか、どれかは本物主義で他は気にしない、という傾向。
数十年前は、安いが正義という文化が大勢を占めていた。それを考えれば大きな変化だね。かつては、それが悪いわけじゃなくて社会から求められていたわけだ。大量生産大量消費も同じ。そのおかげで今がある。現代は振り子のように振れながら、少しずつ「価値の置所」が変化しているのだ。

今日も読んでくれてありがとうございます。価値のおきどころが多様化していて、とてもおもしろい時代になったと思うよ。なにより、お金だけじゃなくなったってことが多様化を生んでいる。これからどうなるのか楽しみだ。

  • この記事を書いた人

武藤太郎

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