エッセイみたいなもの

今日のエッセイ 柏餅から食文化史を深読みしてみた。 2022年5月6日

季節にちなんだ食べ物に、柏餅がある。伝統的に端午の節句には柏餅がつきものではあるのだけれど、そこまで長い歴史があるわけではない。柏餅が登場したのは1750年頃だとされている。歴史の長さとしては300年弱といったところだけれど、チマキひな祭りの白酒に比べると新規参入である。チマキや白酒との時間的な開きは1000年以上あるのだからね。

端午の節句と柏餅の関係は江戸で誕生した。縁起担ぎであるのは、ほかの節句料理と似たようなものだね。カシワという植物は、新芽が育つまでの間古い葉が落ちない。人間社会に置き換えると世代交代がとてもスムーズだということになる。

将軍家でも、将軍が亡くなった時にはまだ子供が幼くて跡目争いに繋がるケースもよく見られた時代だ。将軍家だけでなく、各藩でもあることだし、もしかしたら商家でもあったかもしれない。そのたびに世が乱れる可能性があるわけだ。鎌倉時代以降、こどもの成長を祝う節句に変化した端午の節句は、子供の成長だけでなく家の安寧をも願うようになったのである。

このあたり、こどもの成長と家の安寧が直結していたというように読み取れるよね。私見だけれど。日本は長い間「家」という繋がりをとても大切にしていたし、江戸時代は特にその風潮が強かったとされている。世代交代がスムーズだっていうことは、現代人が感じるものとはもう少し違ったものなのかもしれない。

この柏餅の文化は、参勤交代に乗って全国に広がったらしい。都会の文化が各地に広がるという傾向は、平安時代も現代も一貫しているよね。もちろん例外もあるけれど、地方から都会に出かけていった人が、キラキラした生活の中で目新しいものを見て、それを地元に持ち帰る。「たべものRadio」の日本酒やスシのシリーズでも同じことが見られるよね。とても興味深い。

柏餅の「柏」という文字。実は実際に柏餅に使われているカシワではない。柏はヒノキ科のコノテガシワを表す漢字だ。柏餅に使われているのはブナ科のカシワ。感じにすると「槲」になる。元々は「槲餅」と表記していたのかもしれないけれど、現在では柏餅が一般的だよね。簡単な文字を使うようになるのは、他の事例でも見られることだ。

もう一つややこしいことがある。地域によってはカシワの葉っぱを使っていない柏餅があるのだ。そもそもカシワは関東の気候で育つ植物らしいのだ。他の地域ではなかなか入手が難しい。そこで、サルトリイバラという植物の葉を使って柏餅にする。関西より西側では多く見られるらしい。それこそカシワの自生が少ないのだからしょうがない。

いばら餅とか、しば餅とか、チマキといった名称の地域もあるそうだから、そのあたりはカシワを使っていないよと表明しているのだ。ややこしいのは、サルトリイバラで挟んだ餅の名称が「柏餅」だったり「チマキ」だったりすることだ。本当の柏餅やチマキとの区別はどうするのだろうか。

物流の発達していなかった時代。というと、語弊があるか。江戸時代にはかなり物流が発達していたからね。正確には、餅のような日持ちのしないものを物流に乗せる技術がない頃。そして、他の地域の食文化がメディアによって即時伝達されるようになる前は問題なかっただろう。仮に江戸絵巻などで見ても、お江戸はそうなんだねってくらいのものだ。テレビで当たり前のように見るようになったら、ごちゃごちゃになってきて混乱しそうだ。どれが正解なのかわからなくなる。

そうだ。正解を求めたがる傾向も近代以降の傾向の一つだろうね。

今日も読んでくれてありがとうございます。柏餅を通して、時代の傾向を読んでみた。と言っても、食文化や歴史の専門家ではないからね。個人の見解でしかないのだけれど。勝手に深読みして楽しんでみたと言うだけのことだ。

  • この記事を書いた人

武藤太郎

掛茶料理むとう2代目 ・代表取締役・会席料理人 資格:日本料理、専門調理師・調理技能士・ ふぐ処理者・調理師 食文化キュレーター・武藤家長男

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