ぼくたちは、同じ時代を生きている限りお互いに何かしらの影響を与えあっていますよね。その度合いは、互いの距離感によって違ってくるのだけれど、ぼくたちはお客様とどういう距離感で仕事をしていきたいのかということに気付かされたことがあるんだ。
例えば、たまに立ち寄るというくらいのコンビニの店員さんとはあまり距離感が近いとは言えないことが多いよね。お互いに「前にも見たことがあるなあ」というくらいかもしれないし、全く感知していないかもしれない。逆に週に一度は訪れる居酒屋だったりすると、かなり親しい雰囲気になることがある。チェーン店だとそういうことも少ないのかな。
掛茶料理むとうの常連のお客様は、比較的親しい距離感でお付き合いをさせていただくことが多い。お客様のほうから歩み寄ってくれる部分もあるし、なによりもぼくらがそうありたいと思っているからね。料亭ではあるけれど、フレンドリーというかアットホーム感を大事にしている。高級店の緊張感も良いけれど、性格的にそっちじゃないなあ。
そういうこともあってか、お客様もぼくらの家庭事情を知っている方が多いし、その逆のこともあるんだ。親しい知人のことを把握していて配慮し合える関係とでも言うのかな。このへんのことを言語化するのはちょっと難しそうだな。ぼくの語彙力じゃ追いつかない。
もともと「プレミアム会員プラン」は、東京ディズニーランドの年間パスポートから着想を得た。ということは以前も書いたけど、このプランの詳細を構築していくときは、いつだって常連のお客様の姿があったなあ。特に、月に1~2回は来店してくれているご姉妹を意識してきた。
お二人は「遊びに来る」という感覚だとおっしゃっていて、このコロナ禍では「趣味のコンサートに行けないから」とか「旅行に行くつもりで」と、日常の「楽しみ」のために掛茶料理むとうを利用してくれている。ぼくの娘が生まれたときだって、顔を見に来たなんて言ってくれたりね。もう、距離感でいったらかなり近いよね。
そんなだから、プレミアム会員サービスは「どうにかしてお二人にもっと楽しんでもらいたい」という気持ちでサービス設計を組み立てたんだよね。このご姉妹がいなかったら、サービスの内容は今のものとは少し違ったものになっていたはずなんだ。感謝しかないですよ。ホントに。
先日もご姉妹のお姉さまからご予約をいただいて、どんな料理にしようか、どんな設えにしようかと工夫してさ。そういうのも、大変ではあるけれど楽しいんだよね。当日お出迎えに出ていくと、妹様の姿が見えずお姉さまにお声がけすると、「妹は数日前に亡くなりました」と。そして「妹が最期までむとうに行くのを楽しみにしていた」と。
やっとお二人のためにと考えたサービスが出来上がったというのに、お届けすることができなかった。悔しさとやりどころのない悲しさと寂しさ。ぼくよりもずいぶんと年齢が上の方々だから、それはいずれ訪れることだったんだろうけれどね。
息子のようにかわいがって応援してくださって本当にありがとうございました。まだ気持ちの整理がつかないなあ。ちゃんと直接お礼を伝えたかったなあ。
ぼくにとっての、お客様との距離感の理想はこのくらい近い感じだったのかもしれない。けど、ちゃんと節度を持った部分は残しておく。そんな感じかなあ。