「神は細部に宿る」という話を聞いたことがある人もたくさんいるでしょう。一般的に広く知れ渡っているということは、ひとつの真実を表しているんでしょうね。
料理の場合でもやっぱり細部を大切にする。していないというケースも世の中にはあるかもしれないけれど、ぼくらのやっている日本料理、会席料理という世界では細部をとても大切にしている。ひとつひとつは大したことのないと思えるようなことなのだけれど、積み重なると大きな差になって現れることを知っているからだ。
数学のベクトルのグラフをイメージするとわかりやすいかな。ほんの少しの角度の違いが、その先々で大きな差になって現れる。
ぼくらの生きている世界では、雰囲気とかニュアンスというものが大きな意味を持つことがある。言っている言葉は同じだけれど、ニュアンスが違うだけで全く本心とは異なる意味合いになることだってあるもんね。伝える側の雰囲気も伝達情報だと言える。
それと同じくらい聞き手の気持ちひとつで変わっちゃうこともあるよね。言った本人は傷つける気持ちなんてまったくないのに、言われた人の受け取り方ひとつで傷心してしまうことなんて日常茶飯事でしょ。
掛茶料理むとうだけではないのだけど、料亭だとかレストランだとかは「雰囲気」も商品の一部だと思っています。ということを、先程の話と組み合わせて考えると、なぜぼくらが「細部を大切にしているか」というのが見えてくるかなあ。
ぼくら提供側と、お客様である受け取り側のコミュニケーションの基本は「非言語」なんだよね。そりゃもちろん、接客応対では料理の説明もするし、仲良くなれば世間話だってする。だけれども、やっぱり「非言語コミュニケーション」の方が圧倒的に多いんだ。料理、部屋のあつらえ、景色、建物で玄関周りからトイレに至るまで、食べるスピード、食べ残し、飲み物のチョイス。こういったことを通して、ぼくらとお客様は「双方向交流」を行っている。
この非言語で双方向のコミュニケーションは、雰囲気で成り立っている部分が大きいんだよね。そうニュアンス。だから、ほんのちょっとした掛け違いで「良い気持ち」と「嫌な気持ち」のどちらにも振れてしまう。どんなに一所懸命にやる気持ちがあってもね。だから、細部を大切にしている。それが非言語コミュニケーションを支える部分だからね。
全てを完璧にというのは、なかなか出来るもんじゃないけれど。「お客様と双方向コミュニケーションする」というのが本質だからね。そのための手段として細部を大切にしています。