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今日のエッセイ 味噌汁のバリエーション 2021年8月14日

2021年8月14日

味噌汁のバリエーションの話です。江戸時代以降にどんどん種類が増えていくんだけど、日本人は味噌汁に何でも入れちゃうから、全部書き出すなんて無理だよね。江戸時代の定番とか変わり種を中心に書き出してみようかな。
もうとにかく、なんでも味噌汁に入れちゃったんだよ。なんたって、味噌汁に突っ込んでおけば大概のものは美味しいおかずになっちゃうから。今でも当たり前になっているのが、豆腐、わかめ、ネギといったところだけど他にもいっぱいある。

前回も登場したアサリとかシジミなんかの貝類は、海沿いの地域では手軽な食材だよね。掛川あたりでも普通に食べていたっぽい。海沿いの地域が中心だけど。江戸のまちなら、深川あたりが有名だね。今で言う両国の近辺かな。江戸幕府によって埋め立てが進められたから江戸中期には内陸地になっていたけど、ここは湿地帯の海岸沿い。二枚貝がいっぱい採れたのよ。浅草なんて草がいっぱい生えている浅瀬という意味だからね。隅田川のことだけど汽水域だから、貝も採れたのかな。そんな環境だったから生まれたのが「深川めし」ね。深川で捕れた貝を煮て、それで炊き込みご飯にしたり、ご飯にかけたり。つまり、貝類は江戸庶民にはとても一般的で流通しやすい食材だったということだね。

それから海藻類はよく食べられたよね。コブ、ワカメにアオサにひじきとか。摂るのもカンタンだし、美味しいし、塩漬けにすれば保存も効くし、安い。庶民の味方の代表格とも言えるかな。昆布は出汁としてだけじゃなくて具として食べるのが下町流だ。もったいないもんね。

海産物では、魚も使われた。その形が変化して今でも残っているのが「煮干し」だ。正確に言えば「イワシの煮干し」全国何処でも大量に捕れるイワシもまた、庶民の味方。これを常時食べられるように乾物にしたのが現代では出汁として扱われている。料理屋で出汁として使う時は、頭と腹をとって水から出汁をとるし、煮干し本体はお椀に入れないことが多い。だけど、過程ではまるごと使ってそのまま食べるかな。祖母が作ってくれた味噌汁はそんな感じだったから、掛茶料理むとうのまかないは煮干しがまるごと入っているよ。
地域によっては、鮭とか鱈も食べることがあったみたいだよ。主に漁村部だけど、そりゃ獲ってるんだからその場で調理して食べることもあっただろうね。そう考えると、漁村の味噌汁は豪勢だったかも。

農産物は、もうホントに何でもあり大根、ネギ、人参、ゴボウ、里芋、このあたりは定番中の定番。その地域の特産物は頻繁に登場したようだ。サツマイモやジャガイモだって使われるし、とろろになる長芋だって味噌汁の具になる。この中でも味噌汁に名前がついているのが、ネギ。根深汁(ねぶかじる)といって、薬味のように細かく切るんじゃなくて、筒状に切り落として具としたもののことだ。主に北関東に多かったらしい。ネギが美味しいなら当然玉ねぎだって使うよ。そりゃそうだ。あと、大根も今なら拍子木の形に切って入れることが一般的だけど、一部では大根おろしにしてから入れたこともあるみたい。ぼくは形が残っていたほうが好きだけどね。これはこれで趣があってなかなか。

青菜では、小松菜とかほうれん草も定番かもね。小松菜なんかは八代将軍吉宗が奨励したこともあって、江戸で栽培が始まったものだから、江戸野菜として庶民にも流通していた。あとは、セリやミツバは日本人が古くから好んだ野菜だもんね。これはもう当然入れる。ミョウガの味噌汁なんかもけっこう人気だったらしいよ。落語のネタにも登場するんだけど、旅籠の主人がお金持ちっぽい旅人にミョウガをたくさん食べさせて預かった財布を忘れさせようって話。結果は財布は忘れずに料金を払うのももらうのも忘れたってオチなんだけどさ。ミョウガを食べると物忘れするというのはどういう謂れだろうね。

話が横にそれちゃった。
菜ものは白菜もキャベツも使うし、何でもあり。その他ヘチマ、胡瓜、ナス、カボチャといったウリ科。枝豆、生姜、菊の花びら…。キリがない。これ書く必要ある?
当然ながら、きのこ類は採れたそばからどんどん味噌汁の具になる。シメジ、ヒラタケ、マイタケは超高級品だったから食べるよりも売り物に変えていたようだけど。それでも食べられていただろうね。

加工品だったら、豆腐の他にも油揚げとか麩も定番だ。あとサツマアゲ(九州では天ぷらと呼ぶ地域が多い)とか、ちくわやはんぺんだね。もちろん、静岡県ではんぺんと言ったら黒いのが普通。白いのは白はんぺんだ。はんぺんについてもいずれちゃんとやろうかね。
変わり種と言われているのは納豆汁かな。江戸時代には定番中の定番だったんだけどね。納豆を包丁で刻んで、ネギとか豆腐をさっくりと混ぜたものを味噌汁に入れていたんだって。納豆の棒手振り(行商)の中には、納豆単体の他に「納豆を叩いて刻みネギなどを混ぜたもの」を売っていた人もいたらしい。味噌をお湯に溶いただけのものに、これを加えて朝食にしていたという記録もあったなあ。江戸は男の単身者が多かったから、こういうお手軽朝食は人気が高かったんだよね。

今日も読んでくれてありがとうございます。全部書き出して覚えることに意味なんか無くて、こぼれ話を添えるだけの回になっちゃった。ひとつわかるのは、味噌汁というやつの懐の深さだ。どんな具材が来ても全部まとめて美味しい味噌汁に変えてしまう。下手な料理教室で「味噌汁には出汁が一番大事で~」なんてやってるのを当時の江戸っ子が見たら「なに言ってやがんでぃ!」と一喝されるかも知れないね。

  • この記事を書いた人

武藤太郎

掛茶料理むとう2代目 ・代表取締役・会席料理人 資格:日本料理、専門調理師・調理技能士・ ふぐ処理者・調理師 食文化キュレーター・武藤家長男

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