エッセイみたいなもの

今日のエッセイ 土台がフワフワ経営論 2021年8月3日

料理屋って、とっても不思議な企業だと思っています。ま、会社と捉えなくても良いのかも知れないんだけどね。不思議なビジネスだなあと思うのだ。

ぼくらの商売が目指しているゴールは「お客様に喜んでもらうこと」。これは、当たり前と言えば当たり前だよね。そのために料理が美味しくなるように工夫したり、努力をしているわけだ。そして、客室や建物も同じ理由で工夫を凝らしていく。特別感だとか、安らぎだとかが得られるようなね。で、その両方をより楽しんでもらうための接客なんかも工夫を重ねていく。

さて、こんな当たり前のことの何が不思議なんだろうと思うかも知れないのだけれど、ぼくにとっては不思議なものに見えてしょうがないんだ。だってね。お客様が喜ぶってどういうこと?感情としては「美味しかった」も含まれるし「楽しかった」も含まれるんだけど、リピートしたくなるくらい喜ぶというのは、そんなピンポイントじゃないと思ってさ。言語化が難しいのだけど、「なんか好き」という感覚なんじゃないかな。

ちょっと、青春時代を思い出してみて。好きな異性がいたとして。まあ、いたよね。その相手の何処が好きって言われても、ちょっとめんどくさい感じじゃない?そりゃあるよ。優しいとか面白いとか性格とか。言おうと思えば言える。だけど、まったく同じ条件の異性が近くにいたとしても、好きになるのはその人だけだということもよくあるじゃん。見た目も性格も能力もそんなに変わらない人が二人いたとして、それでも直感的に「この人が好き」ってなる。それって、もう「なんか好き」の世界じゃないかなあ。
あ、中学生くらいの純な気持ちで想像してね。

これが、料理屋のビジネスの「お客様に喜んでもらうことの先」にあるゴール。

じゃあ、出発点は何処だ?儲けたい儲かりたい。そういうこともあるかも知れないけれど、純粋に稼ぎたいのなら飲食業はハードルの高い業界だよね。うまくやる方法はあるのだけど、食にこだわりがなければ他の業界の方が早いよ。IT関連の方が飲食業よりも効率が良い。少なくとも現代においては。だから、金儲けが第一であることは起業という面では薄いかな。
だとしたら気持ちの部分になるのか?美味しい料理を作って喜んでもらいたいとか?だよね。だいたいがこの手のタイプだろう。あとは、料理を作るのが好きという人もいる。作った料理を自慢して褒めてもらいたいという人もいるのかもね。いずれにしても「ぼくはこうありたい」という気持ちが先にある。

「わたしはこうありたい」を出発点として、「なんか好きと思ってもらう」をゴールとしてみる。
とりあえずね。いろいろあるだろうけど、とりあえず。

でね。事業の経営とか起業って、めちゃくちゃロジカルな世界なわけじゃない。データの分析をして、戦略を考えて、どうやったら利益が出るのかだったり、会社のどの部分に何を投資するのかだったり。高校の数学でも問いている方が精神的には楽かもしれないというくらい。答えのない問いを繰り返すわけだ。なんなら、答えよりも問いの立て方で事業が大きく変化する。
何が言いたいかと言うと、つまり「数字」と「論理」で構築された世界だということね。

「わたしはこうありたい」という、なんとなくある感情
「なんか好き」という根拠のない感情
そして、その間をつなぐロジックの塊
最初と最後をブリッジで繋ぐイメージなんだけどさ。崩れないようにしっかりと橋を設計して、しっかりと建設していくわけでしょ。だけど、両端の土台が「なんか好き」「なんかやりたい」というフワフワ感。
つくづく不思議だなあ。

今日も読んでくれてありがとうございます。だから、世の経営者たちが書いた書籍は「精神論」が多いのかもねえ。ロジックよりも、両端の土台が精神世界のものだから。うーん感慨深い。

  • この記事を書いた人

武藤太郎

掛茶料理むとう2代目 ・代表取締役・会席料理人 資格:日本料理、専門調理師・調理技能士・ ふぐ処理者・調理師 食文化キュレーター・武藤家長男

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