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今日のエッセイ 実用性を兼ね備えたエンターテイメント 2021年5月13日

2021年5月13日

食事は「人間が生きていくために空腹を満たすもの」です。というのは動物も同じだけれど、人類は食事に「楽しみ」という価値を見出したんだよね。
初めはの頃はそんなことなかったんだと思うけど、だんだんと「この食材いいな」とか「こういう組み合わせで食べると美味しいな」ということに気がついて、料理の味だけじゃなくて演出なんかにも興味を持つようになって、とどんどん文化としての食事になっていったんだね。きっと。

料理や食事はこうやってエンターテイメントになっていったんだけど。他のエンターテイメントとは決定的に違うところがある。お腹を満たしたり人と交流したりといった「実用性を兼ね備えたエンターテイメント」ということだね。こういう側面を持っているから難しくもあり楽しくもあるんだろう。

純粋なエンターテイメントには、ある程度のリテラシーが必要だと言われている。例えば音楽でもクラシック音楽だったり、能や歌舞伎などもそうだね。聞いた人見た人全員が「良いね」とならないものあるんだ。将棋や囲碁の解説をしているNHKの番組にしても、ゴルフやサッカーの中継にしても一緒だね。興味の有無ということもあるけれど、そもそもルールを知らない人には楽しみがわからない。

ここからが、食事のおもしろいところでさ。どっちが良いとか悪いとかでもないし。なんなら共存できるんだよね。今日は実用重視という食事もあれば、今回は楽しみ重視ということもできるじゃない。
仕事の合間にお昼ごはんを食べるのだけれど、スケジュールが詰まっていて時間がない。という時には、「実用重視」の食事にすればいい。それこそひとりでササッと食べられるくらいが良いよね。
誰かと一緒に交流を深めたり、ゆっくり食事自体を楽しみたいという時には、立ち食い蕎麦みたいなところは選ばないよね。掛茶料理むとうもそうだし、レストランや雰囲気のいい居酒屋を選ぶかもしれない。こういうのは「食事がエンターテイメント」ということになる。

実用としての食事、エンターテイメントとしての食事。そういう二者択一をする必要がない。むしろ、どっちも受け入れてしまう。で、時と場合に応じて変えればいい、というのがいいところだと思うんだ。

ファッションも同じことが言えるかな。
頭にタオルを巻いて日曜大工をしていた人も、夕食にレストランに行くときはパリッとしたスーツを着こなして、髪もきっちりとアップにして出かけていく。海外の映画やドラマを見ているとそういうシーンを目にすることがあるよね。彼らがやっているのは、「TPOに合わせて、複数の自分を使い分けている」ということになるんじゃないかな。料理もファッションと同じことが言えると思うんだよね。

だから、飲食店同士は競合でもあるけれど、同時にお客様をシェアする間柄でもあるんだよね。車や住宅ではありえないでしょ。競合しているようでいて、実際は共存している。
実用性を兼ね備えたエンターテイメントというのは、実に興味深いジャンルだと思う。

今日も読んでくれてありがとうございます。掛茶料理むとうは、料理屋演出はエンターテイメント寄りのポジション、人との交流では実用寄りということになるのかな。

  • この記事を書いた人

武藤太郎

掛茶料理むとう2代目 ・代表取締役・会席料理人 資格:日本料理、専門調理師・調理技能士・ ふぐ処理者・調理師 食文化キュレーター・武藤家長男

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