「血糖値スパイク」が起きるといろんな良くないことがあるよ、という話をしてきました。医学的な知識がなくても飲食店が昔からやってきた対策というのがあるんだよね。あんまり知られていないけれど。
会席料理で説明していこっか。
会席料理って、もともと「日本酒を飲む」前提で発展してきた。わかると思うけれど、日本酒は糖質が高い飲み物だよね。しかも、食べ物じゃなくて飲み物だから糖質の吸収がめっちゃ早い。さらにはアルコールだから、一緒に食べる料理の糖質吸収をあげちゃうんだ。
だったら飲むなって言われるかもしれないけど、酒好きにはそういう論理は通じないんだよ。飲まないんじゃなくて、どうやったら美味しく健康的に酒を飲むかということに知恵を働かせるんだよね。考えたらスゴイパワーだ。だけど、飲み会でグイグイ飲むというイメージではないよ。上品にお酒を嗜むという雰囲気を想像して欲しい。それが日本流の昔からあるお酒の飲み方だからね。
会席料理では、初めに「前菜」とか「先付け」とか「突出し」というものがあるよね。
実はこういうものにも、ちゃんと健康的に食事をするという意味でも役割があって、血糖値スパイクを起こさないような工夫もそのうちのひとつだ。比較的野菜を使用した料理が含まれていることが多く、わかりやすいところなら「おひたし」や「和え物」が用いられる。西洋のように生野菜をモリモリ食べる習慣がないから、こういった形に変えて提供することが多いんだろうね。調味の上で甘味を持たせることもするけれど、控えめにする気遣いもしている。
続いて出てくるのは吸い物。椀物とか汁椀とも言われるね。これの健康食としての役割は、胃液や唾液の分泌を促して消化を助けること、空腹時にアルコールが胃に入る刺激を和らげること、塩分糖分の濃度を薄めることなどの意味がある。お酒を中心に飲み始めると水分が不足しがちになるからね。脱水状態にならないようにという気遣いでもある。
こんな感じで、それぞれのお皿に健康上の役割が持たされていて、ご飯ものが最後にくるのも理にかなっているでしょ。
会席料理が全体的に淡白な味わいが多いのは、糖質や塩分を取りすぎないようにしているからということもあるね。味の濃いものは少量だし、ある程度のボリュームのあるものは薄味。ご飯をかき込むには物足りないけれど、単品で食べて丁度いいくらいの味付けね。薄味だからといって美味しくなくちゃ料理じゃない。だから出汁が重要になるんだ。出汁がしっかり効いていると、塩分糖分を控えめにしてもちゃんと美味しくなるという特性を生かした工夫なんだね。
会席料理って「料理を楽しむ」「お酒を楽しむ」という視点で見てもいろんな工夫が施されているのだけど、健康的な食事という面で見てもかなり考えられているんだ。たまに「会席料理なんて、毎日食べてたら糖尿病になっちゃうよ」と言われることがある。だけど、それは大きな誤解だということがわかってもらえるだろうか。もし本当に糖尿病を誘発するようであれば、それは会席料理の本質を理解していない料理人が作ったものだということだと思う。
ちなみに、洋食と比べるとデザートがかなり軽めでしょ?「なんで日本料理はデザートで手を抜くんだよ」と文句をいいたくなる人もいるかもしれないけど、これもちゃんと理由があるんだよ。
会席料理はデザートの前までに必要十分な糖質を食べていることになる。それも糖質として吸収するまでに時間のかかる形に変換してね。だから、本来だったらもう糖質の塊を食べる必要なんて無いんだ。実際デザートを提供しないお店だってある。
会席料理のデザートは「肝臓のため」に提供されている。食べる飲む、ということをすると分解をするのだけれど、そのとき肝臓はかなりのパワーで活動をすることになる。だから、肝臓がスムーズに働くためにほんのちょっと後押しをするくらいの糖質を提供するわけだ。
お酒を召し上がる場合は、肝臓がアルコール分解という仕事をするのに、取り急ぎ糖質が必要だから即注入してあげる。そういう感覚ね。ちなみに、西洋料理のデザートがボリューミーなのは、その前までの料理がタンパク質と脂質が中心で糖質が少ないからだ。栄養バランスを考えて、不足している糖質を補うため。
時々、いきなり糖質の高い「突出し」を出しちゃう居酒屋さんに出くわすことがある。これは、料理の持つ本来の意味をちゃんと学んでこなかったんだろうね。日本料理だけじゃなくて、世界中の伝統的な料理を勉強するとわかるんだけどさ。ほとんどのものは「健康的な食事」のための工夫がしてあるよ。
今日も読んでくれてありがとうございます。前菜を作る時に気をつけるのは、「季節の演出」「五味の味わい」「健康」。これらを全部かなえるものって、作るよりも考えるほうが大変だったりするんだよなあ。頑張ろ。