全ての料理が美味しくなるために必要な考え方は「濃度」です。まあ、そればっかりじゃないんだけど。それでも「美味しい」という言葉には「ちょうどいい濃さ」という意味が含有されるような気がするんだよね。ほら、まずい料理の表現として「しょっぱすぎる」とか「甘すぎる」とか言うでしょ。逆に「薄くて味がしない」も失敗の表現だもんね。
濃さっていうのは、もちろん「塩味」に限ったことじゃなくて、五味の全てに通じる。甘すぎたらダメだし、酸っぱ過ぎてもいけない。苦すぎたり辛すぎたりすると、食べられない。これが五味の濃さの話。
五味以外にも「濃さ」の加減で美味しくなるものもある。「うま味」「香り」もそうだよね。そうそう、「うま味が強すぎると美味しくなくなる」という話をしたらびっくりされたことがあるんだけどさ。うま味だって濃ければ良いってものじゃないのよ。すまし汁なんかを作るとき、出汁が濃すぎるとどうにも良い感じにならない。そういうこともある。昆布が強すぎるとか昆布が強すぎるとか、そういう叱られ方をすることもある。
香りは、どんどん濃くしていくと臭くなる。「くさや」を薄めると「シャネルの5番」と同じ香りになるっていうのは、どこで聞いたか忘れちゃったけど。どうやら匂いの成分が同じらしい。ただ、濃いか薄いかですごい差だよね。世界で最も臭い料理のひとつと言われる「くさや」、世界でその名を轟かせた「シャネルの5番」。どっちも世界ランカーか。
こういうことは身近なところにもある。掛茶料理むとうで言えば「ふぐ」だ。ふぐはうま味が強いというのも特徴のひとつだけれど、「香りが良い」というのも大きな特徴でさ。ふぐ鍋を始めると部屋中に良い香りが立ち込める。美味しそうな良い香りって良いよね。ところが、ふぐを捌いているときはかなり生臭い。自宅に帰った時に「今日ふぐ触った?」と妻に気づかれるレベルでわかるらしい。もちろんしっかり手洗いはしているのだけれど、けっこう強烈な匂いがするのだ。
料理人は、五味だけじゃなくてうま味や香りの濃度には特に気を使っている。日本料理の特徴のひとつだと言われていたらしいのだけど、今はほとんどの国の料理人が同じだ。詳しいことはわからないけれど、中世ヨーロッパくらいの時代は、「匂いは他の匂いで打ち消す」が主体で濃度を下げるという発想があまり無かったらしいよ。だから香辛料の文化が発展したんだとか。肉食が関係しているのかな。
「うま味」や「香り」の濃度に気を使うのは、日本料理が水の料理と呼ばれているところにもつながるのかもしれない。
自宅で料理をする時は、ちょっとだけ五味以外の濃さを気にしてみて。特に、「塩分や糖分が気になる」という人はね。いつもよりほんの少し「うま味」を濃くすると、塩分が少なめでも味を感じやすいから。あと、香りをつけることをしない家庭も増えてるって聞くけど、ほんの一工夫で出来るからやってみて欲しい。急に美味しくなるからさ。特に現代の日本人は「無臭」に慣れすぎて、香りを使う習慣が薄れているから、料理の香りが減退している。香ばしくするだけでも良いし、木の芽や青じそ、いちご、ゆず、ごぼう、なんかをちょっと加えるだけでずーっと美味しくなるよ。
今日も読んでくれてありがとうございます。香りの成分はとっても繊細で、すぐに消えてなくなる。レトルトは繊細な香りの保存には向いていないっていうのもあって、人工香料に頼らざるを得ないんだって。