エッセイみたいなもの

今日のエッセイ 食べるのが好きが一番美味しい 2021年4月4日

結局、料理を作る人って「美味しいものが好き」っていう人が一番美味しい料理を作るんだと思うんです。

じぶんのなかに「何かを好き」だとか「誰かを好き」っていう気持ちがあるじゃない?時によっては、それが少し小さくなる時があるんだよね。「好き」という気持ちのタンクがあったとして、そのタンクの中身が少なくなっているような感じなのかな。だけど、他の誰かはタンクが充実していて、世界中には「好き」がたくさんあるんだよね。その「好き」を借りてきて「好き」という感情を味わうことも出来るはずなんだと思うんだ。

恋愛ドラマを見て、ハラハラしたりドキドキしたりするように。登場人物に自分を重ねてみて、その人の「好き」っていう気持ちを借りてくる。ということもあるよね。ぼくはもうあんまり恋愛映画を見る機会は少ないんだけど、たまには見てみると良いかもしれない。
大河ドラマや歴史漫画を読んでみると、その物語の主人公になって「好き」という気持ちを自分のもののように感じることだってあるし。特定のスポーツ選手を応援する人の気持ちになって、その選手を応援してみると、いつものじぶんとは違う感情で応援していることもある。
「好き」という気持ちは、いろんな誰かがいろんなことを好きでいてくれるおかげで借りてくることが出来るんだよね。そうすると、じぶんの中の好きが増幅するような感覚にもなるんだ。

むとうみたいなお店は、日常品の料理とは違うから「美味しいものを食べたい」とか「ちょっと特別な気分になりたい」とか、そういうことが好きな人が来店されることが多い。それっていうのは「好き」を体験しに来ているんだと思うんだ。ぼくだって同じだ。どこかに旅行に行ったり、食事に行ったりする時はそれが「好き」だから行く。
それだけじゃなくて、なんだかそのお店の人が見ている「好き」を借りに行っているような気もするんだよね。だって、料理を作るのが楽しくてやっている人って「美味しいものを食べるのが好き」っていう人が多いんだよ。で、そういう人が作ってくれた料理は美味しいんだ。仕事だからやっている人もいるし、料理を作るという事自体が好きな人もいるし、料理で楽しませるのが好きっていう人もいる。それらもやっぱり良いものを作ることは出来るんだけど、「好き」を借りることが出来ない気がしてるよ。ぼくが食べる側にいるのだから、「食べるのが好き」を借りるわけでしょ。だから、その時に作るのが好きというのは求めているものとずれちゃうよね。

体調だったり、心のサイクルだったりいろんな原因で、じぶんの中の「好き」の量は変化するけれど、誰かの好きを借りてくる事ができるから、いつまでも「好き」でいられるんだと思うよ。だからぼくら料理人は外食が多いのかもしれないね。そうなんだよ。料理人って休みの日は外食する人が結構多くてね。もしかしたら、他の誰かの「好き」を借りに行っているんじゃないかと思っているよ。

  • この記事を書いた人

武藤太郎

掛茶料理むとう2代目 ・代表取締役・会席料理人 資格:日本料理、専門調理師・調理技能士・ ふぐ処理者・調理師 食文化キュレーター・武藤家長男

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