家庭で魚を焼くとしたらコンロについているグリル、そうでなければオーブンやフライパンになるでしょうか。ぼくらは焼台で焼くんですよ。まあ、みなさんご存知でしょうけれど。いろんな焼台というのがあって、炭を並べてその上で焼くタイプが基本で、炭をガスや電熱管に置き換えたものもある。熱源の下側に食材を奥タイプもあるんだけど。今日は、「強火で遠火」の話をしますね。
昔から焼き物は「強火で遠火」が良いって言われているんだけど、それはなんでだろう。ということを真面目に掘り下げて考えてみる。焼くって一体何が起こっているだろうね。
焼き魚は「良い香り」が大切なんだよね。その「良い香り」を分解すると「魚自体に含まれる香り成分」「適度に焦がした香ばしさ」になる。
まず「魚自体の香り成分」ね。表面にあるのがピペリジン、内側がトリメチルアミンオキシド。こんなのは覚えなくて良いけど。香り成分は加熱すると「良い香り」を出すんだって。だから炙り焼きにしなくても加熱さえ出来ていれば良い香りになるってことだよね。大切なのは「良い感じの焦げ目」で出る、香ばしさ。
火に近いところで焼くと表面だけ先に焦げちゃう。で、いい感じの焦げ目になったときは、内側は生。焼き物としては全然いい感じじゃないよね。
じゃあ、弱火で焼くとどうなるか。表面がなかなか固まらないから、内側にある旨味がどんどん逃げちゃう。たまにパッサパサの焼き魚に出くわすんだけど、だいたいこれが原因だもんね。旨味が家出する前に、表面を焼き固めて閉じ込める。ちなみに肉でも同じね。
あとね、空気の滞留がけっこう大事なのよ。火の上って、もう空気がめちゃくちゃ熱いでしょ。あの熱い空気が魚の上側、火のあたってないところをやんわりと加熱してる。意外と下側と上側って温度差が出やすいんだよね。だから、サウナみたいに空気で包み込んで加熱ムラが出ないようにしている。加熱ムラがあるとさ、これまた美味しくないのよ。弱火だと、食材を温められても空気まで温めるにはパワーが足りないってこと。ちなみに、フランス料理のポワレも原理は一緒。フライパンに脂をひいて高温で焼く、あれね。
表面はしっかり焼いて「良い感じの焦げ目」と「旨味閉じ込め」をする。
内側はムラの無いようにしっとりふんわり加熱する。
このふたつを同時にやろうとした結果、「強火の遠火」になったんだね。スゴイよね。めっちゃ考えてあるんだ。基本ってやっぱりスゴイ。
家庭用グリルの場合は、あんまり強火にしちゃ駄目ですよ。そもそも熱源が近いからね。遠火が出来ないもん。そのかわり熱い空気は溜めておけるから良いよね。だから、魚を入れる前に庫内を充分にあたためておくと焼きムラがなくて美味しくなるという話。あと、魚を冷蔵庫から取り出してすぐ焼かない。というのも、温度差を下げる工夫です。