エッセイみたいなもの

今日のエッセイ 料理を作る能力は・・・ 2021年2月9日

料理の能力というのは、いくつかに分類されているのかなと思うのです。

基本的な技術、知識、丁寧さ、特殊技能といったふうにね。

基本的な技術は、繊維を潰さないように野菜を切るだとか、煮物の火加減が適切だとかそういった部類です。美味しく料理を作るために必要な最低限の技術だよね。これが出来なかったらプロの料理人としてはちょっとね、と思う内容だけれども、大抵のことは「慣れ」れば出来るようになることばかり。そりゃ毎日やっていれば出来るようになるよ。

知識だって、同じこと。ほら味付けの順番で「さしすせそ」というのがあるでしょう。これも調理知識のひとつだし、野菜の品種ごとの味の違いを知っているのだって、下処理の方法をたくさん知っていることだって、みんな知識。そもそも知らないことには出来ないこともたくさんある。だから、僕ら料理人は実験を繰り返して答えを探している。ただ料理本はたくさん出ているから、それらを参考にすることで実験の時間を短縮することが出来るというのは、ありがたいね。おかげでうちの書庫はいっぱいです。

経験が増えてくると、こういった基本技術と知識は体にインストールされていって自由に使うことが出来るようになる。というのは、料理に限ったことじゃないですよね。

僕が料理を始めたばかりのころ、特殊技能なんてあるわけがないから徹底的に本を読み漁りました。とにかく、どこかの能力を高めようとね。いろんなお店の料理を食べに行きましたし。

最初から全ての能力を手に入れることが難しいなら、ひとつに絞って取り組む。そんな発想です。暇な時間に桂剥きの練習をするのも、基本技術を手に入れるため。

冒頭に書き出した「能力」のうち、「丁寧さ」だけが異色です。やろうと思えば誰だって出来るのだけれども、とても面倒な作業があって、それをやらなくても料理を完成させることはできること。そういう作業があります。超一流になると、そのあたりのことも踏まえながら効率とのバランスを考えて、一定以上のレベルを保ちながらうまく省略出来るようになるそうです。

「そうです。」というのは、父には出来るけれど僕はその領域に至っていないから。

父が「本当はこうやるんだけどな」と言っているときは、僕らは「省略する前のやり方を教えて」と言って聞き出しては練習です。凡人が新しいことをやり始めるなら、人より手をかけて丁寧な仕事を徹底的にやること。もうそれしかないと思い至って、その姿勢は今でも変わらないですね。

最近はね。作業スピードが上がってきているので同じ内容でも、かかる時間が減りました。そしたら、もっと美味しくするために出来る「もっと面倒なこと」を見つけられるようになってしまったの。だから、結局は時短にはなっていないのだけれども、その分美味しくなれば良いよね。

  • この記事を書いた人

武藤太郎

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