エッセイみたいなもの

今日のエッセイ お茶の入れ方は一通りじゃない 2021年5月9日

緑茶の入れ方について、何件かお問い合わせをいただきました。それも、けっこうマニアックなことをね。「茶葉によって入れ方を変えるってどういうこと?」とか、「料理に合わせるってどんな感覚?」とか、そういうことなんだけど。

お茶の製造の仕方で、いろんな仕上がりがあってね。どういう仕上がりにするかは、大抵の場合茶師という人が決めている。それをみた僕らは「この茶葉はこういう味を目指しているんだろうなあ」ということを読み取るということをするんだよね。

例えば「このお茶はコクを出すことを重視しているな」ということになったとする。そうすると、少し低めの温度でじんわりと味を染み出させたい気持ちが湧いてくるんだ。だから、いつもよりも少し長めに抽出する。普段が30秒だったら、1分くらい。ちょっと長すぎるかな。というくらいだけど、これで渋みも追加されて力強い味になったりする。

他には「爽やかで軽やかな感じを出したいんだろうな」というお茶は、優しい渋みをもたせてあることが多いから、多少高めの温度でも「苦い!」ということにはならない。だから高めの温度で短時間で味と香りを出すようにする。その場合は、時間が短い分だけ抽出できる成分、うま味とか渋みとかの全体量が少なくなるから、茶葉の量をほんの少し多めにするかな。なんてことを考える。

敢えて熱湯をほんの少し、そうだな5ccくらい入れて茶葉をふやかせておいて、そこに適温のお湯を追加する。そしてさっと出すなんてこともする。5秒間だけ熱湯でお茶を入れて、その1煎目は捨てて、85℃くらいのお湯で20秒ほど入れるという方法もある。
書き出すときりがないのだけれどね。茶道のお作法とはかけ離れているし、一般的じゃないやり方なんだよ。ぼくらは、茶葉を料理の食材と同じに見ているから、味を引き立てる工夫だったら何でもするっていうことだ。
昆布や鰹節を使って出汁をとるやり方だって、実はたくさんある。もちろん、このあたりが基本ということもあるのだけど。結局の所「料理人がどういう味を出したいのか」「この料理に合う出汁はどんなものか」によって、基本じゃないやり方をどんどん工夫していくんだよね。だから、出汁のとり方は料理人の数だけあるとも言われている。

お茶だって、同じように千差万別なんだ。

掛茶料理むとうは、「茶葉本来の持ち味を最大に引き出したい」という考え方でお茶を入れる。というのは「茶師の目指した味をなるべく再現したい」ということでもあるよね。ただ、目指した味というのも1点だけを見ているのではなくて、少し幅をもたせてあるから、その幅の中でいろいろと工夫をしてみることはするよ。

低温抽出も美味しいけど、食後は角が立っているくらいに渋みが効いている方が美味しく感じるよね。口の中がさっぱりして、爽快感があるくらいがお茶のうま味を感じやすいということなんだ。

  • この記事を書いた人

武藤太郎

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