エッセイみたいなもの

今日のエッセイ たべものラジオ「ポン酢のポンってなんだ?」

ポンズのポンって、いったい何だと思います?食の世界にも、正確なところはなんだかわからないけれど、当たり前に使っている言葉や食材があるよね。言われてみるとよくわからなくなるもの。今日は「ポン」なモノたちを紹介していきます。

ポンズってポン酢って書くことがあるよね。だから「ポン」の意味がわからなくなっちゃってるんだけどさ、「酢」の漢字を使っているのは完全に言葉遊びなんだ。酢とは一切関係ないのよ。でも酸っぱいじゃん?と思うかもしれないけど、たまたま酸っぱいものだから酢の字を充ててみただけなんだ。

ポンズの正式名称は「ポンズ醤油」と言う。「ポンズ」と「醤油」を組み合わせたものだからこの名前で呼ばれているのね。ちなみに、明治から大正の書物には「ポンス醤油」と記載されているんだよ。それが変化して「ポンズ醤油」になり、省略されて「ポンズ」になったんだ。

じゃあ、「ポンス」って何?だよね。ポンスの語源はインドのサンスクリット語のパンチャ。言葉の意味は「5」だよ。紅茶、砂糖、香辛料、塩、レモン汁の5つを混ぜて水で薄めたものを胃腸薬として飲んでいたんだけど、5種類混ぜたことからパンチャと呼ばれていたんだって。それが大航海時代にヨーロッパに渡って、「いろいろ混ぜたもの」と言う意味で広がったのね。フルーツポンチってあるでしょ?これは、フルーツをアルコールに漬け込んで食べるものなんだけど、パンチャをフルーツで作ったってことだから。パンチャが変化して英語圏はポンチになったのよ。ちなみにフルーツポンチって、現代ではデザートの扱いになっているけど、元々はお酒なんだ。

これが、オランダ語ではポンスという発音になる。実はポンス醤油はオランダ語だったんだ。江戸時代に鎖国してたのは知っているよね。海外との交流は一切なしよって認識している人もいるけれど、一部の外国とはOKだった。それが、明とオランダ。長崎の出島を唯一の開かれた港としてヨーロッパ勢としてはオランダ船だけが貿易が出来たわけ。だから、オランダ経由で日本に入ってきたということだ。

ちなみに、この2カ国だけがOKだったのかだけど。もう明は親みたいなもんだからね。隋とか唐とか元とか、国が変わっても中国大陸との縁は切れなかったし、先進国の技術や知識は欲しかったんだね。あと、一つにはキリスト教が関係している。明はキリスト教の布教はしてこないでしょ。オランダはキリスト教圏ではあるのだけど、宗教革命の影響が少なくてあんまり宗教を広めようとしなかった。キリスト教って人間はみんな平等ってことをメインに打ち出していたから、士農工商という身分社会を作っていた江戸幕府としては都合が悪かったんだ。だから、布教活動を目的としている人たちは排除したかったんだね。だけど、オランダは貿易がしたかっただけ。だからOKにしたんだ。

ま、そんなこんなで「ポンス」というものが日本にやってくるのだけど、遠路はるばるオランダからフルーツがやってくるわけもなくて、腐っちゃうしさ。オランダはインドやインドネシアに拠点があったから、その辺りのものを日本に持ち込んだと考えるのが自然だよ。で、やっぱり「いろんなものを混ぜた美味しくて酸っぱいもの」という概念だけが、日本化していくわけ。本家インドが伝えたわけじゃないから、好き放題に変化していくよね。

ここからは想像だけど、たぶん聞いた話を日本で再現してみようとしたんだろうね。そしたら、食材が揃わないじゃない。レモンなんてまだ無いし。日本にあった柑橘類と言えば柚子くらいのものだから、まずは柚子で決まりね。お茶なんて飲み物なんだから、混ぜようとすら思わなかったんじゃない?紅茶と緑茶じゃ全然味が違うしね。で、作ってみたらよくわかんないものになっちゃったんだけど、醤油を入れてみたらいけるんじゃね?ということになった。そしたら、劇的に美味しくなっちゃって、いろんな人がドンドン工夫するようになって、今の形に落ち着いたと。

今日も読んでくれてありがとうございます。もうメチャクチャな変遷を辿ったことで、原型なんかないんだけど言葉と概念だけがふわっとした形で残ったのがポンズなんだね。元は薬、途中で食べ物、飲み物という変遷をたどり、最後は調味料と。パンチャとポンスの長い長い旅でした。

  • この記事を書いた人

武藤太郎

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