エッセイみたいなもの

今日のエッセイ 「たべものラジオ」こぼれ話。スシの変化から見る「イノベーション」の環境因子

2022年2月7日

「たべものRadio」のこぼれ話です。

さて、そろそろ「世界へ広がるスシ」のシリーズも終盤。もう収録は終わっているんだけどね。

江戸時代になって、もうびっくりするくらい「すし」が変わっちゃった。もともと鮨も鮓も、漢字の意味としては「漬物」なわけだ。本来のスシも「発酵食品」だ。

これを、生物の分類みたいにしたらどうなるんだろう。ハヤズシ科ニギリズシ目ニギリズシ?ハヤズシ科マキズシ目ノリマキ?

こんなふうに、メチャクチャ変わっていく料理は他にもたくさんある。

今回「たべものラジオ」の中では、グルメブームの環境要因を想定して、グルメブームが変革を牽引したという決着にした。けれど、それが本質なのだろうか。自分で考察した割には、まだまだ疑問が残るんだよなあ。

専門家以外の視点。

もしかしたら、これが本質的な理由じゃないかと最近思い始めた。ヨソモノ。

それまでの伝統とか系譜といったコンテクストを考慮しない人。

実は他の業界などの知見を持っている人。

違う社会からそれを見ている人。

そんな意味で、今回で言えば「スシやじゃない人」の目線が関係しているのかもしれないと思っている。

なにかしらの商売を始めるのに、あれこれと準備が必要で、業種職種によっては認可が必要だ。というのは、近現代の話。だから、江戸時代みたいな近世までは、やりたいことを比較的かんたんにビジネスとしてスタートすることが出来たんだよね。ま、一部例外はあるだろうけれど。

屋台でスシを売るなんてことは、参入ハードルがメチャクチャ低かっただろう。よく考えてみて。もともと漬物だ。漬物なんかは、どこの家庭でも漬けられた。やる気さえあれば。それが、漬けなくても作れるお手軽料理になっていった。店によって旨い不味いはあっても、とりあえず出店は出来る状態。しかも、大都市で人口も多いから、とりあえず店を出しさえすればビジネスが成立した時代。

そりゃ、儲からない仕事をしている人だったら、中にはすし屋台に参入した人がいたとしてもおかしくないよね。というか、途中から急増しているのだから絶対にいたはずだと思う。

別の業界から来た人。いわゆる「スシの素人」が、どうにかこうにかスシが売れる工夫をするわけだ。もはや、それまでのスシの伝統だとか、スシとはこうあるべきだとか、もう気にしない。これは、素人だからこその無鉄砲さだよね。

あいつはスシを知らない、とか陰口を言われたところで知ったこっちゃあない。売れてしまって、定番化してしまえば良いのだ。そのうちに、ホントのすし屋がインスパイアされて、新しいアイデアをハイクオリティで再現してしまう。

どうだろうか。

これは完全にぼくの想像でしか無いのだけれど、絶対にありえないというような話でも無いのじゃないかな。

グルメブームというのは、こういった越境現象や気付き、その機会がとても増加しやすい環境と言い換えられると思う。

今日も読んでくれてありがとうございます。イノベーションが起きる状況が、もしこんな感じだとしたら、なにか現代のヒントにならないかな。

  • この記事を書いた人

武藤太郎

掛茶料理むとう2代目 ・代表取締役・会席料理人 資格:日本料理、専門調理師・調理技能士・ ふぐ処理者・調理師 食文化キュレーター・武藤家長男

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