エッセイみたいなもの

今日のエッセイ インスタントな世界のご飯 2021年6月14日

2021年6月14日

日本が世界に誇る発明品のひとつに「インスタント食品」というのがあります。レトルト食品や、冷凍食品も含めて、あっという間に料理が出来上がるというのは、食の世界に大革命を起こしたと言っても良いんじゃないかな。

今思いつくだけで、インスタント食品ってどのくらい思いつきますか?すぐに食べられるというものや、ちょっとひと手間だけで料理になるというもの。そういうのが発明されて、食の世界を席巻することになったのも、やっぱりこの時期だったんだ。高度経済成長期。

インスタントラーメンはもちろんのこと、温めるだけでパスタソースができるレトルトパック、冷凍ピザ、冷凍餃子はお世話になる機会が多いかもね。あとなんだろう。一世を風靡したのはミートボール。冷凍うどんや蕎麦、そういうものもある。
こうやって並べてみると、和洋中のインスタント食品があるよね。そして「単品で成立するもの」と「ご飯のおかず」の両方がある。だから、このインスタント食品だけがご飯文化を衰退させたとは言えないと思う。けれども、「ご飯の消費を促すおかず」よりも「ご飯を炊かなくても良い料理」の比率が少しずつ大きくなっていった、ということには貢献しているかな。

生活がインスタントになっていった結果、料理もインスタント性が求められるようになっていった。そういうことなんだろうね。お米は生では食べられないけど、食パンはそのまま食べられるもんね。と考えると、日本人にとってのパン食は「インスタント食品」の延長上に存在しているのかもよ。全てではないけれど、その側面だってある。という感じね。

日本人が和食を大切にしているからこそ、和食をインスタントに切り替えられなかった。ということもあるだろう。
焼きたてのパンが美味しいのはもちろんわかっているけれど、食パンを買ってから数日たっていても、まあ食パンとして食べられる。だけど、ご飯は炊きたてから数時間以内じゃないと嫌だよ、って人も少なくない。冷凍ご飯だって、ピラフとかチャーハンになってたら良いけど、白飯はなんだか味気ないよという人もいるよね。
コーンスープは粉末で買ってくることに抵抗は少ない。だけど、インスタントの味噌汁って手抜き感があってなんとなく気が引ける。
ほらね。思い当たる節があるんじゃないかな?

どうにかしようと思えば「ご飯文化」だって、時代に合わせてインスタント化は出来たと思うよ。実際、そういうことに向いた料理なんて、いくらでもあるしね。だけど、日本人としてのアイデンティティーがそれを許さなかったんだよね。親世代からの目もあっただろうし、自分自身が居心地が悪かったのかもね。

結果として、時代のインスタント化に抵抗感なく移行しやすかったのは「和食以外」という土台が出来上がっていったんだね。和食、つまりご飯文化へのこだわりがあるからこそ、ご飯文化の衰退に繋がっていく。そういう皮肉な流れになっちゃったんだろうね。だけど、みんなご飯が好きなんだよ。だから完全には消えることがない。逆に、「おかずがある」という状況になると、パスタやパンやラーメンじゃないんだよね。これだけおかずがあるのなら「やっぱりご飯」という人も少なくないでしょ。だからベースはやっぱり「ご飯」であることは間違いないんだよね。
ご飯文化を強化したい。お米消費量を戻したい。そう考えて活動している人は、どうやっておかずを手軽に提供していくかだったり、調理しやすい環境を整えるかだったりを考えることが重要になるかもね。

今日も読んでくれてありがとうございます。インスタント化のくだりを書いている時に「これ、お茶とそれを取り巻く市場」の話に似ているな、と思ったよ。めんどくさいと思う人が増えたんだろうね。

  • この記事を書いた人

武藤太郎

掛茶料理むとう2代目 ・代表取締役・会席料理人 資格:日本料理、専門調理師・調理技能士・ ふぐ処理者・調理師 食文化キュレーター・武藤家長男

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