エッセイみたいなもの

今日のエッセイ 俯瞰と仰視と中間の行き来の難しさ。 2022年6月10日

2022年6月10日

モノゴトを俯瞰して見ることはとても大切だ。ということは、よく聞くよね。ほんとに大事だと思う。なんだけど、けっこう難しいんだよね。

俯瞰するにしても、レイヤーの設定が難しい。感覚としては、遠くに離れて見たり、近づいてみたりを繰り返すんだろうか。

たべものRadioだと、物理的なエリアを広げてみるということもする。日本ではこういう食べ方が当たり前だし、それが常識だと思っているけれど、海外ではぜんぜん違うなんてこともたくさんある。ぼくらにとって、アンコは当たり前の存在なんだけど、多くの国の人にとってはアンビリバボーな食べ物なんだよね。豆を甘くするなんて気持ち悪いってさ。豆は塩で味付けするのが普通だからね。お米を炊く時に砂糖を入れるような感覚なのかな。

あと、時間軸も思いっきり引き伸ばすよね。このエッセイでも何度か取り上げているけれど、スシなんて別物になっちゃったもの。スシって、そもそもは漬物なんだから。全体的に俯瞰してみると、スシの定義とか食通の言う食べ方とか、もうどうでも良くなるもん。現代において、海外でのスシが日本のスシとはかけ離れてることなんて、変化の歴史を見ればどうってことないくらいだ。

今挙げた、エリアを広げるとか時間軸を引き伸ばすっていうのは、案外やりやすい。その気になれば、調べようもあるし、学ぶことは誰でも出来る。その気になるかどうかって話だから。たべものRadioは、その気になるきっかけになればいいと思っているんだ。

一方で、あんまり俯瞰してばかりいると実生活につまづくリスクも有る。遠くばかり見ていると、足元の障害物に気が付かないというのと一緒だ。だから、たべものRadioで俯瞰すると同時に、実際に食材を手にとって見て、作ってみて、食べてみるということをする。俯瞰していたことなんかはすっかり忘れて、目の前の作業に没頭する。とにかく美味しく作るということに集中するし、しっかり味わうということに集中する。

行ったり来たりすることが大切なんだろうね。

さて、一番難しいのは中間だ。エリアを中途半端に広げてみる。県内とか国内とか、飲食業界とか、レイヤーは無限にある。時間軸もどうにでも設定できる。お客様の動向を分析する時に、世代に区切るっていう手法はよくあるけれど、あれは時間軸のレイヤーを区切っているんだろうね。

問題は分解して考えるべし。というのは、デカルトが言っていたのだったかな。それって、俯瞰してみるレイヤーを逆方向に働かせることだよね。微細に割ることだ。元の問題の大きさから細分化する。

元の問題の大きさが社会や世界というレベルだとすると、それを具象ごとに分解したり、エリアを分けたり、時間を区切ったりして考えてみることにも繋がるかもしれない。

逆の話をしよう。飲食店で働くとして、そこには料理をつくる人もいるし、配膳する人もいる。業務内容は多岐にわたる。掃除や仕入れやテーブルセットや洗い物、ドリンクを作ったり、調理したり、うちなんかだと草むしりなんかも含まれる。さらに、僕の場合は財務やら経営判断もあるし、たべものRadioもある。

いろんな業務があるなかで、どこまでを仕事として認識するかは個々のレイヤーの設定に拠る。よくあるのは、料理人はホールへ出ないし、ホールスタッフは調理をしない、ということだ。もちろん、技能や専門知識が必要なこともあるけれど、お互いにカバーしあって良いわけだ。経営者目線で考えれば、お客様に楽しんでもらうことがゴールなわけで、与えられたエリアをこなすことはゴールのための一部でしか無い。

手段はすぐに目的化してしまう。ということは往々にしてよくある。前職の会社はもっと規模が大きいから、分断されまくっていたしね。部の利益と会社全体の目的とでバッティングするなんて、ザラだ。

レイヤーを上げれば全てが解決するわけじゃないよね。時には、冷徹にエリアを分解しておいた方がいいということもある。どっちも必要だって話なんだけどさ。ただ、この行き来が難しいんだよ。一人だけが出来ても意味がないしね。

今日も読んでくれてありがとうございます。具体的な解決策は見つかっていないんだ。なんとなく思っているのは、俯瞰するレイヤーを上げるときは、一旦手をとめて落ち着いて考えるってことが必要なんだろうなってこと。キャンバスに向かって絵を描いていて、時々離れたロッキンチェアーに腰掛けてお茶でも飲みながら眺めるというような感覚かな。

  • この記事を書いた人

武藤太郎

掛茶料理むとう2代目 ・代表取締役・会席料理人 資格:日本料理、専門調理師・調理技能士・ ふぐ処理者・調理師 食文化キュレーター・武藤家長男

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