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今日のエッセイ 味噌汁の味付け番外編 2021年8月18日

2021年8月18日

料理人同士で改めて味噌汁の話をする機会もないもんだから、「やっているくせに説明するときに忘れること」があるんだよ。ということで、味噌汁番外編開始。

味噌汁の自由度の高さには、改めて驚く事があったよね。そんなことあり?みたいなことも、歴史上当たり前にやってきたわけだ。そういう流れ

の中で、まだみんなの頭の中に残っている既成概念があるんじゃないかと思ってさ。冒頭の通り、料理人同士で話をしていると「あるある」「それってこういう時だよね」なんて、共感を生むんだけど、一般的には驚かれるんだよ。

味噌汁の調味料ってなんだと思う?
もちろん、味噌だよね。そりゃ間違いない。なんだけど、味噌しか使っちゃいけないような雰囲気ない?味噌以外を使った瞬間に「それ、邪道だ!」みたいな感覚。ぼくもそう言われたことがあるんだけど、邪道ってなに?味噌汁みたいに自由度の高い料理に邪道なんて存在しないってば。だいたい、料理に邪道も本道もないよ。歴史的に積み上げられた中で、美味しく作るための知見が基本と言われているだけのこと。それをどう崩そうと、それは料理を作る人の感性だからさ。ゴッホやピカソを見て邪道だって言わないもんね。それはそれで良いんじゃない、好きじゃないけどっていうくらいの感覚で見て欲しい。

味噌汁の調味料としても「醤油」「みりん」「酢」を使うことがある。
もしかしたら、どれもこれもが味噌汁に使われる印象が無いものばかりかもね。だけど、日本料理の料理人に話を聞いてみると、けっこう使っている人も多いんだ。前回までに「味噌の種類と特徴」を紹介したよね。この味噌の特徴を踏まえて、単体で使ったり合わせて使ったりして、食材の持ち味を活かそうということになるんだけどさ。仙台味噌と西京味噌を同じ分量で合わせて、ほんの少し八丁味噌を入れて、隠し味に瀬戸内の麦味噌を…ってやらないよね。そりゃ、そういうことをする人もいるかもしれないけど、一般家庭で何種類もの味噌を常備していることはあんまりないと思うんだ。ほら、ぼくらは料理屋だから。掛茶料理むとうで使う味噌は何種類だっけ。信州味噌、赤味噌、八丁味噌、西京味噌の4種類。たまに金山寺味噌も登場するか。それでもそんなものだ。

ということで、合わせ味噌で味を調整する代わりに「醤油」「みりん」「酢」をうまく活用すると家庭の味噌汁のバリエーションがぐんと広がるよって話だ。

カンタンな使い方を紹介するね。
甘みの強い食材を具にすると、全体が甘くなってしまってなんだか締まりのない味になることがある。新じゃがいもと新玉ねぎの組み合わせでいくと、これはめっぽう甘いよね。そんなときに信州味噌メインで行くと、甘さが勝ちすぎちゃうでしょ。そこで、味噌をちょっと控えめにして八丁味噌の代わりに醤油を加える。そうすると、全体が塩味に傾くでしょ。さらに、お酢を数滴落とす。これで全体がギュッと締まった味になるんだ。醤油の塩味とほのかな苦味、お酢の酸味が引き締めるというのは味噌ベースならではだね。味噌煮込み系の料理、サバの味噌煮なんかもお酢を入れることで味がしまるのと同じ原理だ。これは使えるでしょ。

逆のパターン。というか、これはぼくが東京の店でまかないを作っていたときの知恵だ。その時の店で働いている人が、約半数が江戸系、4割が関西系、1割が東海地方の料亭で修行をしてきた背景を持っていた。だから、出汁の取り方も汁物の味付けも系統がバラバラなんだよね。お店でお客様に出す料理だったら、親方の味付けで統一すればいいだけなんだけど、賄い料理はみんな好きなことを言うからめんどくさいのよ。味噌汁が薄いって怒られたと思えば、別の人からは今日の味噌汁ええ塩梅やったなあと褒められる。今日の出汁は良いなと褒められたらと思ったら、この出汁は角が立っとるであかんと言われる。まあそんな具合だ。ここで登場するのが、みりんだ。ぼくの好みは東海地方のみりん。もちろん本物のね。関西系と江戸系の人たちの中間くらいの味付けにしておいて、最後にちょこっとみりんを入れると、どっちの人たちも納得しやすいみたいだ。

これはね。みりんの持つうま味、甘みとコクがポイントだ。西京味噌を加えるようなもんなんだよ。江戸時代の料理本料理塩梅集に「赤味噌10に対して白味噌3で合わせる」と書いてあったけど、その味に近づけていく感じだ。東京だと仙台味噌をベースにしているお店が多いから赤味噌系だよね。だから、ちょっとみりんを入れることで合わせ味噌に近づけることができる。この感覚を知っていると、甘みよりも香りの強かったりアクの強い食材のときに醤油とみりんをうまく加えることで全体のバランスを整えることが出来るというわけだ。

ぼくらは、それぞれの味噌を使い分けているから、その感覚の延長上に他の調味料を置いて使っているイメージなんだけどね。そんなことはお構いなく、いろいろ試してみるとよいと思います。

今日も読んでくれてありがとうございます。番外ということで、山椒や七味、胡椒もカレーパウダーも使い方次第で味噌汁を美味しくしてくれるよね。シナモンをちょっと入れた肉入りの味噌汁もいけるんじゃないかな。味噌汁の自由さを目一杯楽しんで見てください。

  • この記事を書いた人

武藤太郎

掛茶料理むとう2代目 ・代表取締役・会席料理人 資格:日本料理、専門調理師・調理技能士・ ふぐ処理者・調理師 食文化キュレーター・武藤家長男

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