エッセイみたいなもの

今日のエッセイ 接待のカスタマイズ 2021年4月2日

2021年4月2日

「接待」は「人間関係の構築」のための手段の一つ。という話を昨日のエッセイに書きました。特に反響はないんですけれども。今日は「接待の現場」の話です。この「現場の話」はよく聞かれるんですよ。たくさんの接待の現場を見ているからね。

信頼関係というのは、ホントは無理に作るものじゃなくて自然と生まれるものだと思うんだけどね。だから、一緒に過ごしているうちに自然と仲良くなっていくしか無いのかって言うと、そればっかじゃないんだとも思うんだ。きっと、一緒に過ごしている間のどこかのタイミングでどっちかが歩み寄るところから関係が始まるはずなのよ。そう思えば、そのきっかけをうまく演出してあげるというのは決して不自然じゃないよね。好きな異性に振り向いてほしくて、ちょっと歩み寄ったりするでしょ?そのくらいの感じね。

信頼関係が出来上がるまでには、いくつかの通り道があると思うんだけど、例えば「共感」っていうのがありますね。誰でもそうですけど「共感」って、すぐに仲良くなるでしょ。出身地が一緒だとか、好きな映画が一緒とか、お酒が好きとか、天ぷらが好きとか。もう何でも良い。お互いにハゲてるとかでも仲良くなれる。経験ありますよね。ホント何でも良いんだけど、好きと嫌いだったら「好き」で共感するほうが良いよね。後々を考えても、ネガティブで繋がると面倒だし。ポジティブで繋がったほうが単純に嬉しいでしょ。
で、演出を心得ている人なんかだと、「美味しい日本酒はありますか?ラインナップを教えて下さい」みたいな問い合わせをしてくるんですよ。そういうことなんです。「相手がお酒が好きだから」ということで、もてなしたい気持ちもあるし、それ以外に「共感ポイント」を予め用意しておきたいっていう気持ちもあるわけだ。
さらに人を使うのが上手い人は、「日本酒好き同士だから、それで盛り上がるように考えてくれますか?」という電話がかかってきます。もう自分で考えないのね。このポイントで「共感」を作ろうと思ったら、専門家に任せちゃう。ぼくらは、それに応えるだけなんだけどさ。実はこの「丸投げ」タイプのほうが面白くなることが多いんだ。

今、日本酒好き例で話を進めているけど、別に何でも良いからね。

「日本酒好き」をネタに「共感」を起こそうとする。そうすると、大抵の場合は自分と相手の好きな日本酒を用意するじゃないですか。詳しい人だと、ちょっと違うものや珍しいものを用意するかもしれないよね。だけど、料理までは考えないでしょ?僕らは商売柄お酒も詳しくはなるけれど、料理が専門なんでね。そこも演出のツールになるわけよ。「お客様はこのお酒が好きだと伺ってましたので、今日はこの料理を合わせてみました」「普段はやらないんですけど、この飲み方だったら炭火が良いと思ったのでお部屋の中であぶらせてもらいます。」
ね。こういうの思いつかないんじゃないですか?部屋の誂だって色々やりようがあるわけだし。

料亭っていうのは、接待を作る「チームの一員」だと思ってもらうと良いかもしれないですね。完全に丸投げされたら困りますけど、チームの一員として相談しながら進めていくといろんな演出が出来ますよ。これは、むとうだけじゃなくても同じはずです。これをやって「面倒くさい客だなあ」と思うようなお店は、そもそも「接待のお店選び」からは外しちゃって良いんじゃないかな。

  • この記事を書いた人

武藤太郎

掛茶料理むとう2代目 ・代表取締役・会席料理人 資格:日本料理、専門調理師・調理技能士・ ふぐ処理者・調理師 食文化キュレーター・武藤家長男

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