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今日のエッセイ 日本でお酒を広めたのは僧侶。お酒ダメなんじゃないの? 2021年6月28日

2021年6月28日

西暦700年代は、日本のお酒の歴史では大きな転換期だったんですね。酒造りが国家事業だったというのだから、現代の感覚ではなかなかピンとこない。ここにはお酒と宗教との関わり方だったり、宗教と国政との関わりがわからないと理解しにくいかもね。
仏教も政治の一部だったんだよね。だから奈良仏教が発展して、東大寺も建立されているよね。宗教の力で国を運営していたんだという話は昨日もしたけど、詳しく知りたい人は個別に聞いてください。ちなみに、奈良の大仏も国難を乗り越えるための国家事業ね。これだけのことをやったんだから、大抵の国難は乗り越えられるよね。という安心感を国民に与えるための事業なんだ。

さて、国家事業の延長上で酒造りを始めた人達がいる。それが、なんと僧だ。ぼくらの認識では、お寺で僧侶がお酒を飲むなんてダメだよね、ということになっている。なのに、お寺でお酒を作っていたんだよ。この辺りが謎めいているかもしれない。
先に有名所をあげておくと、高野山。ここはかの空海が立てたお寺だよね。奈良の正暦寺(しょうりゃくじ)には菩提泉という泉があって、この水を使ってお酒を作ったのが現代の清酒の始まりとして「日本酒発祥の地」という石碑も立っている。

原始仏教から大乗仏教となり、日本へ伝来した頃には当然ながら「飲酒戒(おんしゅかい)」といって、飲酒を戒める教えが取られていたのが仏教です。律ではないところからすると、修行のじゃまになるからやめようという心得で、禁則事項ではなかったみたいね。多少のゆるさは持っていたとはいえ、良しとまではされていなかったんだから、酒造りまでするなんてことは考えにくかったはず。
これには、神道との融合が大きな影響を及ぼしている。平安時代には「神仏習合」といって、両者が融合していったんだよね。余談だけど、日本に古来からおわした神様のなかに仏教的悟りをもとめて仏教の修行を始める神様が出てきたんだって。神様なのに改宗するんだね。そういえば神道の神様ってわりと人間のような俗っぽいところあるから、人間と同じような感覚にもなるのかな。仏教が日本にきて200年もしたらそういうことになって、神社の付属として寺院が建てられるようになる。というのが神宮寺と呼ばれるお寺だ。なんだか変な名前だと思ってた人もいるんじゃない?神宮なのにお寺。

こうやって、お寺が神道と同じように日本の宗教儀式にお酒を用いるようになったと。
禁じられているんだけどね。飲むのはもちろん、酒を作って売るのも。ただ、独自の解釈もあって仏教には「喜捨(きしゃ)」といって、寄付をすることは徳を積む行為の一つとされている。これを拡大解釈をして、お酒を作って販売した利益は寺院の運営に充てられていたから良し、ということにしたのだと思う。ちなみに、酒に飲まれる僧侶もいたっぽい。大宴会してるし。あの空海でさえ「病気の時はお酒を飲んでもよし」とか「どうしても飲みたくなったらお茶の容器に入れ替えてこっそり」と書いているしね。

こういった動きは、基本的に西日本を中心とした当時の朝廷の話。言い換えると、朝廷権力が及ぶ範囲がそのくらいだったんだけどね。朝廷の権力は及ばなくても、仏教の波及は政治力と関係なく広がっていく。これはもう布教だから、僧侶の努力で広がっていくよね。となると何が起こるか。もちろん酒造りの技術も一緒に広がっていくことになるんだよ。お酒の技術を広めるのに仏教が絡んでいるとはお釈迦様もびっくりするかもね。

そんな中でも、ちょっと異色の存在といえるのが山梨県の勝沼にある通称「ぶどう寺」こと「大善寺」だ。ここの薬師如来は左手に葡萄を持っている。現代では日本ワインの一大産地となっているけれど、当時はそうでもなかったらしい。とはいえ、お米の収穫量が乏しかった時代だったから容易に作ることが出来る「ぶどうの果実酒」というものも地元で作られていたようだ。奈良時代に聖武天皇の許しを得て建立した寺院だもの、神道儀式と融合した仏教であるはずだし、酒の儀式か習慣は持ち込まれたよね。開祖ははっきりしていなくて、奈良大仏造立の責任者行基のゆかり伝説があるくらいだけど、宗派が真言宗なんだよね。あの空海の真言宗の一派。流れから考えたら、お酒、詳しいでしょ。
ちなみに、現在は寺内でワインを作っているから、行くと飲めるよ。あと、この地域は日本酒を入れるような瓶でワインを飲むのが一般的。だいぶ古い時代からいわゆる白ワインだったらしいけど、ホントに1000年前からなのかは確かな記録を探すのが困難だった。現代のワイン産地として有名になったのは明治に入ってから近代産業として推進したからだ。産出量が急拡大したんだよね。でもまあ、もっと大昔からあっても歴史的な流れを見ればおかしくはないかもなあ。

今日も読んでくれてありがとうございます。宗教とお酒の関係は中々興味深いことがあります。世界中で同じようなことが起こっているからね。この謎も紐解いてみたいなあ。

  • この記事を書いた人

武藤太郎

掛茶料理むとう2代目 ・代表取締役・会席料理人 資格:日本料理、専門調理師・調理技能士・ ふぐ処理者・調理師 食文化キュレーター・武藤家長男

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