エッセイみたいなもの

今日のエッセイ 桜と日本料理の楽しみ 2021年3月26日

桜の見頃が今年は少し早そうです。昨年に比べると1週間以上早いかな。むとうの庭や裏の池の周りの桜は、掛川開業当時に苗木を植えたものですけど、35年の月日を経て見事な花を咲かせてくれるようになりました。もうすぐ掛川開業35周年。なかなか感慨深いものがありますね。

さて、日本料理は特に季節感を大切にすると言われています。改めて考えるとなんでだろう。冷蔵庫のない時代からあるスタイルだからと言えばそれまでかもしれないのだけど、そこまで季節感を重んじないスタイルも世界にはありますよね。日本国内でも、そば屋とかとんかつ屋とかの専門料理店は一年中提供しているわけですし、季節感を「演出する」という感覚は薄いもんね。だけど、日本料理(会席、本膳、懐石など)は、とかく季節感大事にする。ということは、現実的な事情以外にも何かしらの理由があるんじゃないだろうかと考えてしまいます。
もしかしたら、ぼくらは「季節を感じる」ことが「幸せ」とか「豊かさ」といったものとイコールで捉えているのかもしれないですね。ほら、桜を見るのもおんなじ。桜の花そのものがキレイだな、と思うのと同時に「春がきた」「始まりの季節」「節目」みたいに「桜から連想される感情」もセットで味わっているような気もするんですよ。情緒とでもいうのでしょうか。春でも夏でも、料理をみて季節を感じるときは「季節の移ろい」だったり、「時の流れ」を体感するんですよ。それが「味わい深い」。その時の「感情」が味わい深い。
なんか良いよね。「去年の今頃は~」とかさ。そういう思い出もセットで、季節を味わうようにして自分の中の感情とか思い出を味わう。
日本料理が季節感を大切にするというのは、料理だけじゃなく「思い出や感情を味わうための仕掛け」という理由もあるのかもしれないですね。

35年もやっていると、子供の頃お節句で来店してくれた子が子供を連れてくるようになるんです。ながーいお付き合いのあるお客様です。「じいじとばあば」になった当時のお父さんお母さんも、孫のお節句料理を食べながら、目の前の息子さんのお節句を思い出して、「あのときもこの部屋だったかしら」なんて会話をしているのも楽しみの一つになるんですよね。ああそうか、ぼくらのお店は僕らだけじゃなくて、お客様の思い出の場所でもあるのですよ。長く残り続けることは、みんなの思い出の場所を守るということでもあるんだね。頑張ろう。

昨年の桜の見頃は、ちょうど初の自粛期間でほとんどご来店はありませんでした。今年は、もうしっかり対策が出来るようになっているので、個室からお花見ができますよ。

  • この記事を書いた人

武藤太郎

掛茶料理むとう2代目 ・代表取締役・会席料理人 資格:日本料理、専門調理師・調理技能士・ ふぐ処理者・調理師 食文化キュレーター・武藤家長男

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