エッセイみたいなもの

今日のエッセイ 老化と成熟のはなし 2021年4月24日

2021年4月24日

「時間が出来たらやろう」と同じ意味で「老後はこれをやろう」と思っていることってありませんか。

両親と話していると、そういう会話になる時があるんです。すると決まって「海外旅行は今のうちに行っておけ」と言われます。というのも、マジでしんどいからだそうで。何年か前に念願のローマに行ってきた両親。ホントにめちゃくちゃ歩くし、階段も多いし、普段から歩き慣れていないと若い人でもかなり疲れるらしいんだ。だから、老後だと見たいものが見られないとね。

そういうことって、体力だけの話じゃなくてさ、あるんだよね。別に老後まで先延ばしにする必要がない楽しみってある気がする。別に今やればいいじゃん。っていう感覚を持っていないと、年齢的な理由でできなくなっちゃうことってある。
恋人同士でスキーやスノーボードに行くのだって、結婚して子供が生まれるとしばらくの間は行きにくくなる。旅行だって、いろんな状況で行きづらくなることもある。だったら、若いうちに行っておいたほうが良いと、ぼくだって思うもの。そういう意味では20代のうちに貯金するくらいだったら、じぶんの経験としてやりたいことにお金と時間を費やしたほうが良い。

逆に、年を重ねてからでしか見られない世界もあると思うんだ。歳を取るって老化としてネガティブに捉える事が多いけれど、成熟していくということも言えるよね。いろんな知識や経験が積み重なったからこそ「いいなぁ」と思えるものってあるんだと思う。ぼくの場合だと、絵画や書がそれにあたるし、クラシック音楽や演歌もそのひとつだ。今でも漫画も読むし、ロックやポップスだって聞く。なんというか、感性が変質することで深みを味わう楽しみを覚えたという感覚があるんだ。より新しいジャンルに目が向いて良さを感じることもあるし、今まで好きだったジャンルの味わい方が変わることもある。

味覚だって変わってくるんじゃないかな。あんなに甘いものや脂っこいものを好んで食べていた人も、そんなに量を食べられなくなる。ぼくも、若いときほど肉の脂身は食べられなくなった。そのかわり、野菜や果物自体が持っている甘さに敏感になったし、赤身肉の旨味や熟成の感覚に深みが増した。
たぶん、35歳くらいから上の年齢の人たちは共感してくれる部分があるんじゃないかなあ。ちょっとずつグラデーションみたいに変わっていくんだよねえ。

だからね。食べるときは、若いときから色んなものを食べると良いと思う。今はあんまり好きじゃないけど大嫌いでもないという食材ってあるでしょ。それはそれで、食べ続けるの。好きだけに偏らない。そうすると、じぶんの感性が変質した時に、新しい味わいを得て食事に深みが出ると思うんだ。じぶんの人生からシャットアウトしたものは、二度と出会うことができなくなるからね。
生きている間に食べられる回数や量は決まっていて、基本的に「食べずに生きる」ということが出来ないのが人間。だったら、食事も楽しみに変えられたら「生活の豊かさ」に少し深みが出るんじゃないかな。ちょっと言い過ぎ?

  • この記事を書いた人

武藤太郎

掛茶料理むとう2代目 ・代表取締役・会席料理人 資格:日本料理、専門調理師・調理技能士・ ふぐ処理者・調理師 食文化キュレーター・武藤家長男

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