エッセイみたいなもの

今日のエッセイみたいなもの 2021年2月5日

2021年2月5日

一日の終り頃に料理の仕込みをしていると、うっかりと飲み会になってしまうことがあります。お酒は売るほどあるものだから、お酒を買う為に外出する必要がない。ということもあるよね。

もちろん、売り物だからやたらと飲んでしまうわけにも行かないのだけれども。

そういうときの話題は、たいてい料理か経営についてになります。最近は会員制サービスを始めるものだから話が白熱することもある。焼き物はもっとこうしたほうが良いのではないかとか、前菜の盛り付けはどうだとか。こんな料理を考えてみたんだけどどう思うかだとか。そんな話が始まって、そのうちに料理を作り出すんだよね。だって、厨房にいるんだもの。

職場でお酒を飲む。そんな機会はこういう商売でなければ体験出来るもんじゃないかもしれないね。オフィスで残業しているからと言って、お酒を飲みながらなんてことは、まあ普通に考えたら難しいだろうと思います。でも、これが意外によいことがあるのです。意見を交わすコミュニケーションの手段として、飲み会の場というのはやっぱり一定の効果があるのかな。酔うということよりも、お酒を「拠り所」として人が集まってくるし会話が始まる。つまり、お酒はコミュニケーションの場を醸成する手段というか口実なのかもしれない。

実は、今回の会員制サービスの特典に「幻の美酒」を飲むことが出来るというのがあるのです。かつて、明治の時代に遠州一円に名を馳せた極上の酒「花の香」が、今の時代に蘇った。それは、名前の通り華やかな香りで、口に含んだ瞬間から陶酔するような味わい。香りは華やかなのだけれど山奥に咲く桜の大樹のような力強さがあって、それには圧倒されるくらいなのに桜の散り際のようにうっすらと余韻を残しながらスーッと消えていく後味でもある。

あぁ、うまい。

なんでこんな話をしているかというと、今この「花の香」に合うコースの献立を考えてるのです。お酒が好きな人は、美味しいものを食べたいけれど量は多くなくて良いだとか、前半から後半への流れの中で味の変化をどうつけるだとか。そんなことを話しながら、試作と試食を繰り返しています。

そんなわけで、お客様よりも先に「厨房飲み会」が始まってしまうのですね。

あまり酔ってしまうと味がわからなくなってしまうからほどほどにしなくちゃ。でも、もしかしてうちの店はお酒好きにはたまらない職場かもしれない。

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  • この記事を書いた人

武藤太郎

掛茶料理むとう2代目 ・代表取締役・会席料理人 資格:日本料理、専門調理師・調理技能士・ ふぐ処理者・調理師 食文化キュレーター・武藤家長男

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